本名は大山。神奈川県に著名な大山があって区別のために鳥取県の旧国名「伯耆」が冠せられているが、地元からすれば不本意だろう。中国地方では群を抜く独立峰だけに地域の敬愛の念は強い。ために学校登山に格好の対象でもあり、中学生などが長蛇の列を成して登る。遮るもののない山頂からは下界が一望、自分たちの学校や自宅がどこにあるのかを遥か高みから見つけ出せば、郷土愛を育むことにも通じよう。
学生諸君は殆どメインルートの往復登山だが、ハイカーとしては単なる往復ではなく、帰路は途中から川沿いのコースに下りてみると良い。元谷の河原から眺める大山北壁が圧巻。険しい岩壁と新緑や紅葉との絶妙のコントラストは、山頂からのパノラマに勝ると断言できる。下界から車道も通じているが関係者限定なので、足で稼がなければこの大観に接することができないのも小気味いい。さらに下れば、大山奥宮や大山寺などの寺社域に至る。通常とは逆ルートで参詣コースに入るのが新鮮な感じだ。
下山後に余裕があればスキー場のある豪円山に立ち寄ろう。ここの展望台から、大山の特徴である穏やかなスロープと、豪快な北壁が明瞭な境界線をなしているのが一望だ。そのラインこそ本日上り下りした登山道なのである。
最後に大山で特筆すべきは、韓国人登山者の多さにある。特に金曜日は、出くわすのは韓国人パーティーの方が多いくらい。「こんにちは」より「アンニョンハセヨー」と挨拶するクセも付く。韓国の釜山から、大山近郊の境港に定期の船便があり、金曜日が上陸日に当るので特に多いとのこと。自国から身近な山として、大山への登山ツアーが定着しているようだ。言葉を交わさない限りはニッポン人と区別が付くの?と思われようが、やはり服装のセンスなどしっかり違う。色合いが派手など、とにかく韓国チックなのである。他にもキムチ類の行動食などに異国情緒を感じるが、文化の違いはあれ、同好同士は心が自然通じ合うもの。神話で国引きの綱を掛けたとされる大山が、近ごろ何かとギクシャクしている両国の草の根親善の絆となるのなら、実に粋ではないか。
◆おすすめコース
登山口-大山-元谷-大山寺(4時間半:中級向け)※登山口の大山寺は、寺の他にも古道や自然歴史館など見所満載
元谷から見る新緑眩しい大山北壁(上の画像をクリックすると大きく表示します)
◆参考地図・ガイド ◎昭文社:山と高原地図55「大山・蒜山高原」