広く日本地図を眺めてみると、海岸線が最も複雑に入り組んでいるのは西九州、長崎県を中心とする一帯だ。その中で最も高いのが雲仙の山々で、そのまま一つの半島(島原半島)を形作っているのだが、九州本土との接点は僅かなもの。有明海・島原湾・橘湾と三方を海に囲まれたその姿は、限りなく島に近い。対岸の熊本方面から眺めると、洋上に高く連なる山々のシルエットが実に決まっている。
地図上で見応えある地形を実景で感じるのなら、山上から眺め下ろしてみるのが一番だ。標高の高い雲仙核心部なら眺めが良さそうだが、パノラマに最も適した最高峰の平成新山には登れないし、普賢岳始め近隣の諸峰は標高の似通った山ばかりでお互いが展望の妨げになる上、何より間近の平成新山が邪魔。標高は多少低いものの、核心部の高峰群とは距離があり、半島のヘソに当たるエリアに、九千部岳なる山がある。やや古い火山で、平成新山などの先輩格に当たる。稜線の一部が岩稜帯になっていて、四囲の海の眺めが抜群なのである。
山頂からまず目につくのは迫力ある平成新山などの雲仙主峰群だが、それよりもぐるりと果てしなく広がる、海と陸が入り組んだパノラマに圧倒される。周辺の三海は元より、南に天草諸島、北には大村湾。諫早湾では、ギロチンと呼ばれた悪名高い潮受け堤防が一直線に。すべてが明快で、ニッポン一の複雑海岸線に合点がいくに違いない。
もうひとつ、九千部岳の名物はヤマボウシの樹が多いことだ。ヤマボウシは純白の花が上向きに咲く。だから山上から見下ろすのが一番。シーズンの6月ともなれば、山肌一面の緑の中に、ホワイト絵の具をまき散らしたような鮮やかなコントラストで魅せてくれる。
ヤマボウシに限らず、雲仙一帯は美しい植物の宝庫として知られる。初夏に九州一円の火山エリアをピンク色に染め上げるミヤマキリシマ、秋にはとりわけ普賢岳一帯の紅葉が天下一品の美しさを見せる。さらに、雲仙は山だけで完結するものではない。下山後は当然の様に温泉が待っている。雲仙なる名称は、元々は「温泉」から来ているのであるし。
◆おすすめコース
吹越登山口または田代原-九千部岳(往復2~3時間:中級向け)※普賢岳方面から縦走することもできる。
◆参考地図・ガイド ◎「雲仙温泉観光協会」のホームページから「雲仙とは?」⇒「雲仙登山ガイド」をクリック