「町も人もカジノ依存のディストピア」カジノを問う【番外】

街中にある金貸の広告

 NPO主催の韓国・カンウォンランドカジノの視察ツアー(10月17~19日)に横浜市従の書記が参加しました。「町の復興のため」と誘致されたHigh1リゾートにより、サブク周辺地域は没落の一途を辿っています。カジノを含むIRを横浜に誘致し、「インバウンド需要を取り込み財政の改善へ貢献する」と言う市長。地域経済やまちづくり、そして住民生活にどんな影響を及ぼすのか。ツアー報告を掲載します。

韓国IR視察「 カジノの闇を背負う町」

 10月17日はソウルに宿泊し、翌日朝に列車でソウルを出発。3時間半ほどかけて今回の目的地であるカンウォンランドカジノを含むIR型のHigh1リゾートが立地するサブクへ向かいました。

サブクのメインストリート。 昼間だが人は通らず2台の路上駐車のみ。

 サブク周辺の地域は元々韓国内で消費される石炭の70%を産出していた炭鉱の町でした。エネルギーの主役が石炭から石油へと移り変わり、徐々に事業を縮小しながら2004年には完全に閉山となりました。

 列車がサブクへ近づくにつれ、「本当にこんな山中にカジノがあるのだろうか」と疑いを抱くほど車窓には紅葉赤みを帯びつつある山々の豊かな緑が流れます。

 昼過ぎにサブク駅を降り、目に飛び込んできたものは放置された廃トラックでした。その幌には「身分証明書があれば金を貸します」「料金延滞の携帯電話でも金が借りられます」と複数の消費者金融の広告が掲げられ、車窓の緑を眺めながら浮かんでいた疑問は吹き飛びました。

どこもかしこも金貸しのチラシ
カジノを出る時には乗って来た車も質草に

 「カジノの町」という印象からするとあまりにも小さなサブクの町に足を踏み入れると、感じたことのない強い違和感を覚えます。人の気配がほとんどないのです。ゴーストタウンというには小綺麗な町中には質屋、風俗店、ラブホテルが所狭しと軒を連ね、一件だけ見つけた旅行会社の窓には「ダナン、マニラ、マカオ」と大きく書かれ、海外のカジノへ向かう旅行の手配をしていました。

 昼食を取ろうと歩き回り、何件も食堂を通り過ぎましたが、その多くは日中に営業をしていません。24時間営業の食堂があったのでそこで昼食をとることにしました。

 注文を取りに来た店主に周辺の飲食店が営業していない理由を聞くと「カジノの営業時間中はみんなカジノに入り浸っているから街中には誰もいない。多くの食堂はカジノが閉店する午前6時前に営業を始めてカジノが開店する正午に閉店をする」とのこと。「店主もカジノに行くのか?」と質問をすると「行く。地元住民は月に1回しか入れないから住所を隣町に移している」と話してくれました。この店主は鉱山で測量士として働いていたそうです。

 夕飯時にも町を歩いてみましたが、屋台街にも生鮮食品などを扱う商店街にも人の姿がなく、あたかも神隠しにより町全体の人が忽然と消えてしまったかのように静まり返っていて、人の営みを感じることができません。

 High1リゾートの入場門には「ゴルフセットを買い取ります」と横断幕が張られたバンが放置され、入場門をくぐるとナンバープレートが外された大量の車が列をなしています。カジノ以外の目的でこの地に来ても、最終的にカジノに足を踏み入れ、有り金を使い果たし、挙句に車を含めた持ち物全てを質に入れ、最後の勝負に挑み、一文無しになる人が後を絶たちません。

 巨大なホテルの中にあるカジノに入場すると、天井が突き抜けるように高く、煌びやかな内装に彩られ、薄暗い照明の中でスロットマシーンなどの原色を中心にしたライトが光り輝き、窓がなく、時計も設置されていないため時間感覚が薄れていきます。

 整然と立ち並ぶスロットマシーンには、平日だというのにほとんど空席がなく、虚ろな目をした普段着の中高年の男女が無言でお金を投入し回し続け、テーブルゲームを取り巻く人々にも活気はなく、黙々とゲームが進んでいきます。

 そこには正装をしてシャンパンを傾け、賭け事に興じるような姿は一切ありません。

夜6時。人のいない屋台街

 翌朝5時半にHigh1リゾートの入り口を観察していると6時に近づくにつれ、それまで1台も車が走っていなかった路上が大量の乗用車やタクシーで溢れ、カジノ利用者を乗せた大型シャトルバスが何台も発着し、下車した人たちは無言で気怠そうに歩きながら町の食堂や宿へと消えていきました。これが町に人が姿を現す唯一の瞬間でした。

 人の流れも、経済もカジノを中心として回り、カジノの付属施設のように立ち振る舞う町の姿がそこにありました。

「 IR来場者をカジノが飲み込む」 反対派/依存症者支援を続ける 古汗南部教会 パン・ウングン牧師

 私は人生を狂わすカジノに反対し、無くさなければいけないという立場から、カジノ周辺でホームレスやギャンブル依存症者支援を続けています。

駅前に「金貸します」

 この地域はカジノ関係者が多く他の教会の牧師は信者の反発を恐れてこの問題に言及しません。こちらの旌善郡は人口が3万9千人ほどですが、カジノができて以来、2400人ほどが自殺しています。今でも毎年120人ほどの自殺者が出ています。

 依存症というのは友人や親戚から金を借り、家族の生活を破壊し、周囲をめちゃくちゃにしてから最後に本人が自殺します。ギャンブル依存症からの回復は容易ではありません。カジノ内にある依存症対策センターはどうやったら再び入場できるかを相談するような場所です。

カジノの閉店時刻。うつむいて歩く人々。

 最初は小規模だったカジノがIR化し、様々な周辺施設ができましたが、カジノ以外の目的で来たとしてもブラックホールのようにカジノが来場者を飲み込んでいきます。

 私は「カジノは詐欺」と書いた帽子を被ってカジノの中に入ることもあります。前にカジノの職員に追い出されそうになり、「ルーレットで30倍が出たら帰ってやる」と座り込んだらすぐに30倍の目が出ました。ですから、テーブルゲームのようなものでもカジノ側がかなりの確率でコントロールできるということだと思います。

 カジノを誘致して自治体に税収は入っているのですが、特に他の自治体より住民サービスで優遇されているということはありません。この地域に住んでいると何かのきっかけで家族の誰かがカジノにはまってしまう可能性があるので機会があれば引っ越したいというのが住民感情でしょう。

「社会的コストを差し引けばマイナス」 推進派/カジノから委託費を受け地域振興を担う
3・3記念事業会 ヨ・ボンギュ事務局長

 2000年に小規模のカジノを誘致し、その後IR化しました。各施設の健全化を願っていますが、現実はカジノに人を集めるために機能しています。

 カジノは他の賭け事と比べると依存性が非常に高いギャンブルです。政府でも対策を練り続けていますが、ギャンブル依存症の特効薬はないのが現状です。

 よくカンウォンランドカジノ入場者のうち30%が依存症だといわれますが、私たちはもっと多いと考えています。依存症問題というのはポンと一つ問題があるわけでなく、蜘蛛の巣のように絡み合っています。

夕食時も商店街はガラガラ

 依存症患者はこの町に留まることが多いので宿泊や飲食で多少地域にお金は落ちますが、それ以上に多くの問題をもたらします。

 この地域は非常に狭いので何かカジノに由来する問題が起きても発見や対策が一定は可能ですが、横浜のような大都市にカジノを誘致すれば問題が広範囲に分散して見えなくなる恐れがあり、そうなれば政府も管理が難しい。韓国ではソウルやプサンなど都市部に自国民向けのカジノをつくる許可が出ることはありえません。

 カンウォンランドカジノは非常に高い利益を上げて地域の雇用や経済を支えていますし、株の51%を政府や自治体が所有する公的側面がある企業で売り上げは国内に還流していますが、正直なところカジノから発生する社会的コストとの差し引きで見れば経済的にマイナスだと思います。

 一例ですが、カジノを誘致してから高校生以下の犯罪率が3倍となり、教育環境の悪化から小学校も郊外に移転しました。生活環境の悪化、教育の問題、犯罪の多発が起き、人口の流出を止めるに至っていません。


 韓国視察にかかる費用はすべてカンパで賄い、組合費は支出していません。