山といえば「寒い」イメージがあるが「寒」の字の付く山名はそう多くはない。そんな「寒」一族で最も多いのが寒風山で、全国で少なくとも5山を数える。なかでも割合有名なのが秋田の寒風山だ。男鹿半島の付け根に噴出した火山である。
八郎潟干拓地を含む秋田北部の平野の只中に、寂しげに佇む姿はどことなく寒々しく、山名に相応しい雰囲気を醸し出している。山頂まで道路が通じ、絶頂には展望塔やレストランがあることから登山の対象とはみなされず、ガイドブックの類にも載っていない。が、オンリーワンの個性があり、ハイカーに是非登って欲しい山といえる。
まずは展望台のある駐車場まで上がる。そこがもう絶頂部で「世界三景」との大看板が。世界三景とはずいぶんでかく出たものだ。秋田三景とはいわないが東北三景くらいにしておけばいいのに、とは思う。ただ残る二つはどこかというと、グランドキャニオンとノルウェーのフィヨルドらしいから、そちらから苦情が出ることはなさそうだが。
山頂の展望塔はかつての横浜スカイビルの様に回転しているので、座りながらに360度のパノラマが楽しめる。眼下に広大な平野が広がり海岸の大アーチが美しい。背後の山々は白神山地から鳥海山まで、南北に長い秋田県が一望にできる。
さて何よりのお勧めはやはり歩くこと。寒風山系ナンバーツーの姫ヶ岳を巡る火口縁に一周登山道があって、これが爽快秀逸なのである。その名も妻恋峠から一面のススキ斜面を登っていくと、素晴らしい眺めが角度を変えながら展開していく。開放感と伸びやかさが堪らない。海・平野・山を見ながら、風を感じ空に溶け込むウォーキングが五感それぞれに訴えてくるのである。
先刻の展望塔などいかにもせせこましく思えてしまう。だから展望塔の方を先に済ませておいたほうがいい。
周回を終えたら、火口内のルートを下って行くと良い。これまでの笹とススキのみの植生とはガラリと変わって樹林帯になり、最奥部には風穴がある。岩の間から風が吹き出しているが、寒風ではなく優しく穏やかなことを今話のオチとしておこう。
◆おすすめコース
妻恋峠-小火口一周+風穴(1時間:初級向け)※一部に露岩の積み重なりがあるので軽登山靴が無難。
◆参考地図・ガイド ◎「地理院地図」でネット検索、国土地理院のホームページから該当エリアをプリントアウト