「駒ヶ岳」の名は山岳界では名門で、日本百名山だけでも4座を数える。すなわち越後駒ヶ岳、甲斐駒ヶ岳、会津駒ヶ岳、木曽駒ケ岳。そして我が神奈川県にも箱根に駒ヶ岳がある。ところが他の駒ヶ岳の様に頭に地域名が付かない。箱根駒ヶ岳とか相模駒ヶ岳なんて聞いたこともない。単に「駒ヶ岳」である。これは実は凄いことなのだ。
通常、オマケなしでシンプルな呼称の方が本家や元祖といえるから。それが証拠に「アメリカディズニーランド」なんて誰も言わない。つまり箱根の駒ケ岳こそ、名門 駒ヶ岳一族の盟主・筆頭なのである………。
妙な屁理屈はさておき、箱根の駒ヶ岳で特筆される特徴として「山頂まで登れる登山道がない」ことが挙げられる。唯一、神山方面へ縦走するルートを辿れば山麓に至るのだが、例の大涌谷噴火騒ぎで閉鎖されて数年が経つ。故に現在は、ロープウェイでは登れるが、歩いて登ることはできないのである。こんな山は全国的にも殆ど例を見ない。
機動力頼りではあっても、是非登りたい山でもある。広大な山上には樹木がないので見晴らしが抜群。足に自信のない観光客は山上駅周辺の散策でお茶を濁すが、ハイカーなら是非一周を。緩いアップダウンで一巡りする間に、次々とパノラマが入れ替わるダイナミックさに圧倒される。眼下の芦ノ湖は元より、富士・丹沢・伊豆の山々、駿河湾に相模湾。そして相模平野を通して小田原から横浜・東京方面が縦一線に並ぶ。
もう一つ特筆すべきは、通常のパターンとは逆に、自然に還りつつある山ということだろう。かつて昭和の終わり頃はロープウェイの他にケーブルカーもあった。山頂にはスケートリンクや円形レストランも揃い、観光箱根の喧騒がそのまま山上まで席巻している、そんな感じであったのだ。それが平成の間にスケート場はなくなり、ケーブルカーも撤去された。今では山上の工作物はロープウェイ駅と箱根元宮の社殿のみ。人口減のニッポン、いずれは観光も縮小していくのだろうが、そんな将来像を先取りしている点も駒ヶ岳のオンリーワンなのである。
◆おすすめコース
駒ヶ岳ロープウェイから山頂一周(30分程度 初級向け)
※空気の澄む秋から冬がお勧めだが、風は強い。春や夏なら、ロープウェイが朝夕に特別運航するタイムが狙い目だ。
◆参考地図・ガイド ◎昭文社:山と高原地図31「箱根駒ヶ岳ロープウェイ」のホームページで。