ニッポンで三大山脈を挙げるとすれば、南北の両アルプス、そして北海道の日高山脈が該当する。日高は標高こそ2000mがやっとであるが、山地全体の面積なら南北アルプスを凌ぐ。かなり林道が伸びてはいるが、さほど開発が進んでおらず、原始の臭いの強さも文句なくナンバーワン。
さらに南北アルプスと決定的に違うのが、山脈の構成だ。アルプスでは何本かの主脈が競い合うように平行に走っているのに対し、日高の主脈は百数十㎞に及ぶズバリ1本、そこから東西に支脈を張り出し魚の骨のよう。とにかく明快で力強い山脈ラインを描いている。
ではその日高山脈を代表する主峰はどの山か。一般には、日高では最高峰であり唯一日本百名山に選ばれた幌尻岳が該当するのだが、日高をよく知る岳人、そして不肖筆者が推したいのがカムイエクウチカウシ山なのである。何やら舌を噛みそうな長名だが、アイヌ語で「熊を転ばした山」といった意味だ。実際、どこから見ても急峻な山容で、登山者の間では愛情をこめて「カムエク」なる略称で呼ばれている。
ではなぜ日高の盟主に相応しいのか。①山脈の背骨に当たる主脈のほぼ中央に位置していること。②日高山脈に特徴的なピラミダルなスタイルであること。この2点で主峰格の幌尻岳を凌いでいる。
さらには山頂からのパノラマの素晴らしさが半端ない。ニッポンの他の山では類を見ないのである。前述した通り、平行山脈がない、すっきりした一本山脈であるが故だ。立山から見る後立山連峰とか穂高から見る常念山脈とか、並行する山脈は格好いい反面、壁に向かう様な重苦しさもある。
ところがここでは、足元から四方八方へ邪魔者なく山脈がどこまでもすっきりと伸びていく。なかでも主脈を見晴るかす南北方向へは、日高独特の三角錐が果てなく一本道に、次第に小さくなってゆく爽快さが堪らない。展望の見事さではニッポンのベスト10、いやベスト3にも推せるだろう。
残念なのは些か登頂が難しい事である。だがそれゆえに山頂での達成感は極上だ。次号では登頂ルートに絡む諸事情に触れたい。
◆おすすめコース
札内川ヒュッテ─八ノ沢─カムエク(往復14時間:上級向け)
※テントは必須、熊対策も万全に
◆参考地図・ガイド ◎昭文社:山と高原地図3「大雪山」