横浜市は先月17日にIR事業者選定などについて協議する「横浜イノベーションIR協議会」の初会合をおこない冒頭で林市長は「IRのような取り組みにより、横浜が持続的に成長していく活力を今、生み出さなければならない」と挨拶した。
しかし、コロナ禍で浮き彫りになったことはグローバル化の名のもとにヒト・モノ・カネを世界規模で移動させる経済構造そのものの脆弱性である。中でも顕著なのが、景気循環や感染症、災害などに脆弱な観光やインバウンド需要なるものの不確実性ではないだろうか。
その象徴が巨大なハコモノに膨大な人々を集め、利益の8割を稼ぎ出すカジノに誘導しギャンブル漬けにする「IRカジノ」という三密ビジネスモデルである。
横浜市は「ウィズコロナ、アフターコロナ時代に適切に対応できるIR」と謳うが、参考とするシンガポールの2つのIRカジノは今年の第2四半期報告で大幅な損失を計上し、7月に営業再開したものの収容定員数や海外からの渡航制限が課され収益回復の目途は立たない。マカオでも4~9月のカジノ収益は前年比でマイナス90%以上となっており壊滅的といえる。米ラスベガスでは3月半ばから始まったカジノ閉鎖が6月から解けたものの中心地では前年の6割程度までしか回復せず、そのまま横ばいとなっている。
数千億円規模の莫大な投資を必要とするIRカジノは成長から取り残された欧米の斜陽産業となっており、その代わりにコロナ禍以前から急速にギャンブル産業はオンラインに移行している。
現在、新型コロナウイルスのワクチンの実用化が注目されているが、安全性や免疫の持続性は未知数である。仮に先進国でワクチン接種が一定進むとしても発展途上国まで広く普及する目途はなく、経済のグローバル化が今後も継続するのであれば第2、第3の感染症の拡大は避けることができない。その度ごとにIRカジノは壊滅的な打撃を受けることになる。
横浜市が公表した横浜IRの「実施方針(案)」によれば、疫病など不可抗力によりIR事業の継続困難な事由が発生した場合に「市は、かかる復旧及び継続が図られるよう協力する」ことになっている。まさか不測の感染症のたびに赤字を税金で補填する構えではないだろう。
不測の事態が起きずともIRから市に1千億円規模の納付金を望むなら、カジノは毎年4千700億円前後の金を巻き上げなければならない。住民の依存症で一般消費の減少による地域経済衰退と社会保障費負担は避けられない。
このビジネスのどこに成長の可能性と持続可能性を見出すというのだろうか。
持続可能な市域の経済に
コロナ禍は経済や社会構造に疑問を投げかけている。
多国籍企業の利益と先進国での豊かな生活を支えるために最も安い原材料と最も安い人件費を求めて国際的な「分業」をおこなってきた経済構造は、感染症が拡大してもマスクを含めた医療物資すら入手不能な事態を生んだ。国際的な部品の供給網が一時途切れたことで、製造業でも国内工場の停止が相次いだ。
経済的な効率ばかりを追求して社会インフラを都市部に集中させることでヒト・モノ・カネの過密状態を加速させてきた従来の都市構造が急速な感染症の拡大を招いた。
一方で感染症病床を維持していた「非効率」な公立・公的病院を閉鎖し続けたばかりに、住民はホテルや自宅での療養を余儀なくされている。
経済効率を追い求めるのではなく、地域住民の生活の質にウエイトを置くべきである。生活道路の改善や特別養護老人ホーム、認可保育所の整備、中学校給食の実現、小児医療費の無償化年齢拡大など生活に寄り添った政策に切り替えても、必要な工事や消費財を市内で賄えば雇用を生み出すことができる。
もちろんその中には地産地消の食料や風力や太陽光を中心としたエネルギー生産も含まれてよい。
IR誘致に象徴されるようなグローバル化や新自由主義的政策が決して我々を豊かにするとは限らない。幻想にとらわれず、地域経済を重視する成熟した経済と持続可能性こそ真剣に議論すべき課題ではないか。