来月から医療機関窓口での「オンライン資格確認」が始まります。マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせ、顔認証つきカードリーダーにかざすことで資格確認ができるというものです。政府は2022年度末までにマイナンバーカードをすべての国民が保有することを方針に掲げ、約8600万人が保有する保険証と一体化させる政策を推し進めています。
マイナンバーカードがなくても医療は受けられます
神奈川県保険医協会が作成したリーフレット「マイナンバーカードがなくても医療は受けられます」
「3月以降も従来の保険証ですべての医療機関の受診ができます。むしろ、マイナンバーカードでは受診できない医療機関が大半です」
全国でも、町医者といわれる個人開業医で顔認証付きカードリーダーの導入を申請している医療機関は15%程度です。
「薬局などを含めても2割ほど。8割の医療機関で使えないのが現実です」
保険証付きのマイナンバーカードしか持たずに受診した場合、どうなるのでしょうか。
「医療機関は保険資格の確認作業ができないので、『後日保険証を持ってきてください』と言われるでしょう」
オンライン資格確認を導入すると、どのような問題が出てくるのか訊ねました。
「一つは、窓口が混乱することが考えられます。マイナンバーカードを保険証として利用するには、マイナポータルでの事前手続きが必要です。そうした周知がされておらず、現在カードを保有する24・2%(1月1日現在)の人のうち、6・8%しかアクティベーション(有効化)されていません。カードを持ってきても使えないのです」
懸念されるのは、紛失や取り違え、情報漏洩です。
「カードは患者から預からないのが建前ですが、機械操作の分からない患者本人に代わって医療機関のスタッフがカードを触って、機器を操作することは当然あり得るでしょう」
増える心配と手間
窓口で返却された保険証をどこにしまったか分からなくなる高齢の患者も多いと言います。
「確認してもらうと『鞄に入っていた』ということが良くあります。これがマイナンバーカードとなれば、保険証の紛失以上に大ごとになるでしょう。医療機関のスタッフも探す手間に追われるなど、手間や心配ごとが増えてしまいます」
保険証であれば月初めに一度提示すればよかったものが、オンライン資格確認では、毎回顔認証カードリーダーで資格確認をおこなう必要があります。
「病院に来る患者は眼帯をしているかもしれないし、顔が腫れているかもしれない。そのときに顔認証システムで正確に認証されるのか」
ねらいは電子証明書の普及
医療機関の多くが後ろ向きだというオンライン資格確認。なぜ政府はこれほど強行に推し進めたいのでしょうか。
「電子証明書と顔認証システムがポイントです。本人認証機能である電子証明書はカードに格納されていて、様々なオンライン手続をする際に必要な本人資格のカギとなります。顔認証は『PINなし認証』といって、生体認証の一つ。電子証明書と一緒に暗証番号等を必要としない顔認証機能を普及させるため、みんなが持っている健康保険証に目を付けたのでしょう」
マイナンバーを含む情報漏洩は500万件を超えます。
「ナショナルデータベースと言って、レセプト情報と特定健診等の情報が集められた医療ビッグデータがあります。研究目的であれば企業にも渡せるものです。これにマイナンバーが紐づけられてしまったら、個人の健康情報が蓄積されていきます」
生体情報や蓄積された個人情報の流出が心配されます。
拡大利用 どこまでも
「強調しておきたいことは、マイナンバーカードの作成は任意だということです。カードがなければできない行政手続きなんてありません」
国民に共通の番号を振り、税や社会保障の情報を一元管理することを求めてきたのは財界です。財界要求に応え、2015年10月からマイナンバー制度が始まりました。
「導入時には社会保障と税以外には使わない、附則には3年をめどに見直しをするとなっていましたが、導入前から拡大利用のための見直しが始まりました」
新型コロナの影響で病院の経営が厳しくなっています。
「小児科や耳鼻科は受診抑制で収入が落ち込んでいます。今、オンライン資格確認のためにお金や手間をかけている場合ではありません」
藤田倫成さん
神奈川県保険医協会理事、小児科医
「情報漏洩の危険性をはらむマイナンバー自体が危険なんですよ」