まずは神奈川県の地図を広げて平野部を確認して頂きたい。横浜から県央に至る相模台地と、西端の小田原を中心とする足柄平野とが、南北に走る山地によって分断されている。これが曽我丘陵で、南北10㎞に満たない小山地に過ぎないが、地質学的には日本でも、いや世界的にも重要な存在なのである。
丘陵の東側は緩やかだが、西側は急峻で平野部とは直線的に境をなしている。わが国で最も活動切迫度が高い国府津・松田断層が走っている故だ。断層の活動とはつまり地震のことであり、数百年周期の活動の結果、西側の足柄平野は沈降し、逆に東側の曽我丘陵は隆起した。それが何度も繰り返されて現在の高さにまでなったのである。
では地質探査を兼ねてハイクしてみよう。スタートは下曽我駅。周囲には著名な曽我梅林が広がり、2月下旬ともなれば紅白の花々とふくいくとした香りの中を夢うつつに逍遥することができる。東に進めば曽我丘陵が眼前に迫ってくる。崖とまではいかないが実に急峻、ちょうど地図上で直線に見えた境界線上に当たる。
急登を喘ぎつつ振り返ると、今しがたまでそぞろ歩いていた曽我梅林が地を這う白い煙のようだ。背後には広大な足柄平野、箱根・富士など、断層の段差から見えるパノラマは実に壮大だ。尾根まで上がると緩やかになり、山上には柑橘系の畑が広がる。もうひと月も早ければ、たわわに実った柑橘類のオレンジ色が目に眩しい。細い舗装道路が網の目に様に山上山腹に巡らされているが、ミカン畑用に整備された農道だ。時折り出くわす無人スタンドには、旬のミカン類が驚くべき安さで並ぶ。
尾根筋の農道を南へと下っていくと、国府津で山が切れ海に没する。断層はこの先も相模湾から遥か太平洋まで続く。実はこの断層、地球上を10枚程で分割する地殻プレートの境界でもある。太平洋プレートとユーラシアプレートがせめぎあっている所で、海洋のプレートが陸上に露出しているのは世界中でもこの一帯だけという。地球のダイナミズムを目と身体で実感できるのが、曽我丘陵ハイクの真骨頂といえよう。
◆おすすめコース
下曽我駅─六本松跡─弁天山─国府津駅(2時間半:初級向け)
※ミカンの景観を楽しむのなら1月中が良い。殆ど舗装路なので、登山靴より運動靴の方が向く。
◆参考地図・ガイド ◎山と渓谷社「神奈川県の山」
(写真キャプション)
満開の曽我梅林と背後の曽我丘陵