1993年に始まった外国人技能実習制度。少子高齢化によって労働人口が減少を続ける日本では、実習生が過酷な労働現場の人材不足を穴埋めしています。「国内の若者には不人気なキツイ単純労働に従事する非熟練の労働力を確保したい」政府と経済界の本音が、途上国への技術移転のために外国人労働者を受け入れる国際貢献という建前の向こうに透けて見えます。首都圏移住労働者ユニオン
(Labor Union of Migrant workers)書記長に聞きました。「日本の経済を支える友人として外国人労働者を遇すべきです」
現代の奴隷制
「奴隷的な労働者がいることを知ってほしい。外国人技能実習制度というのは人権侵害の塊のような制度で、世界中を探しても日本にしかありません。なんとしても今年中に制度をなくしたい」
国際社会が現代の「奴隷制」と見る外国人実習制度。その理由の一つに、外国人技能実習生(以下「実習生」)として日本に来るために抱える多額の借金があります。▼送り出し機関が得る手数料▼地方で実習生を集めるブローカーへの謝金▼企業を紹介する日本人ブローカーへの謝金▼送り出し機関から日本の監理団体へのキックバック▼面接のために母国へ来る日本の監理団体や企業への接待費など、かかる経費すべてが実習生にのしかかります。加えて、実習生が失踪したときのための保証料も上乗せされ、借金は100万円を超えることも。実習生の過半を占めるのがベトナム人。母国の一般的な月収は2万円程度です。
「送り出し機関は、日本へ行けば『最初の1年で借金を返済し、残り2年で200万円貯めることができる』と甘い言葉で誘います」
しかし、そんな「成功者」は一握りです。
「実態は、最高が最低賃金です。運よく超過勤務手当を支払ってくれるような企業が実習先であれば、送り出し機関が言うような『夢』が叶うこともありますが、稀です」
しかも、実習生が受け入れ企業を選ぶことはできません。送り出し機関と監理団体との合意によって実習生が送り出される仕組みです。
「『技術を学ぶための実習期間中である』とされ、雇用主を変更することもできません。雇用主を特定して在留資格が与えられるのがこの制度の特徴です。変更が認められるのは企業の倒産や労基署が認めたときです」
職業選択の自由がないことも「現代奴隷制」と批判される理由の一つです。
根底にある日本の都合
「送り出し機関は日本へ行く前に『誓約書』にサインをさせるんですよ。その内容は『会社の言うことに従うこと』などのほかに、『妊娠しないこと』『労働組合とかかわらないこと』などがあり、送り出し機関は日本に出先機関を設けて監視しています。誓約を破ったり妊娠したりすれば、その出先機関に囲い込まれて帰国させられてしまうため、実習生たちは妊娠しても誰にも相談せず、不満があっても言うなりになるしかありません」
こうしたことがまかり通る根底にあるのは、健康で従順で使い勝手の良い労働力を求める日本資本主義の都合です。
2020年12月末現在で監理団体は約3万1000団体、受け入れ企業は約4万社、実習生は約40万人と報告されています。
ILOは「強制労働に等しい」
「政府が建て前で言う技術移転なんてものが本当にあるのなら、そもそも受け入れ企業側が移転すべき技術を持っていなければいけない。けれど、それを検証する場がないんですよ。受け入れ企業は申し込みをするだけです」
首都圏移住労働者ユニオンでは2010年から毎年、ILO(国際労働機関)に、外国人技能実習制度は29号条約(1930年の強制労働条約)が禁じる強制労働に当たるとして、現状と問題点を報告しています。
「その活動が実を結び、2019年のILO総会に提出された条約勧告適用専門委員会(CEACR)の報告書には『強制労働にも等しい虐待的慣行や労働条件から、実習生を完全に保護するための措置を執るよう、政府に強く要請する』と記述されました。米国務省も国連も実習生を人身取引の被害者だと位置づけています」
ニュースになるような失踪や新生児の遺棄を誘引する前近代的な働かせ方なのです。
終わらないアジア圏の経済覇権
先進諸国は、途上国の土地や労働力を収奪、搾取し、経済成長を遂げてきました。母国よりも豊かな国へ向かう移住労働者の背景にあるのは、世界経済の構造的に不均衡な発展です。日本もまた姿を変えながら今なお経済覇権主義を継続/展開する国です。
「オーバーステイも密入国も、家族のために外国で働いてお金を送りたいという気持ちで働きに来ている。悪いことなんてまったくない。それが『悪いこと』になるのだとしたら、日本の法律が間違っているのね」