穂高と言えばわが国を代表する岩山の殿堂だが、穂高岳なるピークは存在しない。ニッポン標高第3位の奥穂高岳を筆頭に、前穂高岳、西穂高岳、北穂高岳などの鋭鋒の総体を穂高岳、あるいはもっと大きく穂高連峰と称している。個々の峰については、登山愛好家は愛着を込めた略称で、奥穂・前穂・西穂などと呼ぶ。上高地から眺めて我々の目を楽しませてくれるのが、たわんだ吊尾根を介しての奥穂と前穂のコンビだ。奥穂は長男坊ながら稜線がまろやか、一方の前穂はぐいとせり上がってヤンチャな感じ。西側に見える西穂は、奥穂から峩々たる岩峰を幾つも配して連なり、その稜線は第一級の厳しいルートとなっている。
この山群の中で登っておきたい一峰となると、やはり最高峰の奥穂高岳になるだろう。日本百名山としての登頂目標ともされている。ただ下界からの山姿を反映して山頂一帯は広いのだが、最高点がごく狭いのが玉に瑕。人気峰だけに長居もしていられず、一段下がった山上広場に降りて景観を楽しむことになるのだが、似たような高さの岩峰がにょきにょきせり出しているので、あちらこちらへ移動しないと展望の全貌が得られない。ピーク制覇の達成感としてはいまいちかもしれない。
一点から360度の展望なら、北隣の涸沢岳がいい(ただし上高地からは見えない)。山小屋からの登りも僅かで尖った山頂に至る。目の前の奥穂のボリュームが圧巻だ。
そして穂高を語る上で外せないのが前穂だ。天に突き出すような大岩峰で、そのスタイル通りの厳しい上り下りを余儀なくされる。意外にも山頂は平坦で広く、天上の巨大テラスと言ったムード。眺めのいいのはもちろんだが、特に印象深いのは見下ろす上高地一帯だろう。前号で紹介した平坦な上高地エリアの地形が手に取るように理解できる。深いグリーンの中に蛇行する梓川。あれが河童橋、あれが帝国ホテルなどと、目標物を探せる楽しみがいい。
我が国を代表する岩峰群でありながら、一部の熟達者だけでなく、一般登山者にも門戸を開いてくれる。厳しくもフレンドリーな山、それが穂高なのである。
◆おすすめコース
上高地─岳沢(泊)─前穂高岳─奥穂高岳─穂高岳山荘(泊)─涸沢─上高地(18時間:中級向け)
※岳沢―前穂高岳間が一番きつい。
逆回りでも良い。