サンショウバラ、ご存じだろうか。バラ科の落葉低木で、品の良いピンク色の可憐な花が、高さ数mの樹木いっぱいに咲き競い、初夏の山の艶やかな彩りとなっている。葉っぱの形が山椒に似ていることからこの名が付いた。なぜか富士山周辺の東部エリアの山地にのみ自生する希少種だ。
別名をハコネバラともいう。その名の通りの身近な生育地が箱根外輪山の乙女峠周辺で、単発的な株がチラホラと見られる。が、本格的にまとまった群落を見たければ、西丹沢の山深くまで行く必要がある。その名がズバリ、サンショウバラの丘なのである。元々は山名のあるような際立ったピークではなかったのだが、いつしかそう呼ばれるようになり、近年では登山マップ等でその名が表記されるようになった。固有の植物名が、未公認とはいえ山名そのものにまでなったのは、全国的にも極めて珍しいだろう。
5月下旬から6月初めが開花期に当たる。広く緩やかな見通しの良い一帯のあちらこちらに株が根を下ろし、惜しげもなく花を見せてくれる。普段は静かなこの丘も、開花期には大変な賑わいを見せる。御殿場線の駿河小山駅から、西側の明神峠まで登山バスが季節運行されるほどだ。
ただ注意したいのは花期があまり長くはないこと。せっかく時期を狙っていても、殆ど散った後でガッカリということもある。ただ、開花前だとどうにもならないが、散った直後なら救いがある。サンショウバラの丘からすぐ東隣に、どっしりした中型の山が見える。これが不老山で、200m程登り返さなければならないが、高い分だけ開花が遅い。山頂に大きな株が数本あり、そこで花見が楽しめるのである。スギ林に囲まれ展望はないが、山頂広場にはテーブル&ベンチもあって休憩には絶好だ。
季節限定人気のサンショウバラの丘だが、オンシーズンでなくても、なかなか良い山だ。サンショウバラが低木なので、周囲の眺めがいい。西丹沢一帯の奥深き山々が果て無く連なっている様が見事だし、箱根連山も一望だ。静かに山を愉しみたい通人なら、空気の澄みわたる晩秋から初冬くらいが狙い目といえる。
◆おすすめコース
明神峠─サンショウバラの丘─不老山─駿河小山駅(5時間30分:中級向け)