古代の東海道は足柄峠越えで、箱根の北側をぐるり回り込むように通じていた。万葉集にも、足柄峠関連で多くの詩が詠まれている。ところが800年、延暦の富士山噴火により足柄道が火山灰で埋まって使えなくなり、新たに開かれたのが箱根越えの道である。当初は災害時の迂回路のような存在だったようだが、利便性が良かったのか鎌倉時代には主要道に昇格。江戸時代初期に畑宿経由で須雲川沿いの旧東海道(現在は石畳道として残っている)が開かれるまで、メイン道として君臨した。
その内の東半分が湯坂道と呼ばれ、今日なお古道の面影を留めている。湯本から芦之湯まで累計標高差は800mに及ぶが、幹線古道がルーツなだけあって全体に緩やかに付けられており、幅広でゆったり。登っても下っても良く、そこは各自の好みで決めてしまえば良いだろう。
ここでは下りで歩いてみよう。ズバリ湯坂路入口のバス停があり、すぐに古道に入るが、最初は殆ど平坦で両サイドに巨木が並び、公園のプロムナードのよう。この先もそうだが、随所でモミジの巨木が連なり、紅葉シーズンは元より、新緑の頃もいい。また林床は草本類が豊かに広がり、初夏なら様々な草花が目を楽しませてくれる。
ほどなくコースの最高地点である鷹ノ巣山に着く。尾根上が開けているがあまり展望はない。戦国時代に北条氏が築いた鷹ノ巣城があったのはここだ!と考えられがちだが、実際には次の浅間山にあったようだ。両者を観察してみれば、山頂が狭い鷹ノ巣山よりも、広やかな浅間山の方が大人数を収容するのに無理がないと実感できよう。たどり着いた浅間山は、広大な草地がうねるように続き気持ちいい。樹越しに箱根中枢の山のピークが見えるのも嬉しい。
後は相変わらず幅のある道を下っていく。湯坂山などの名が見えるが目立ったピークはない。やがてスギの植林帯に入ればゴールは近い。静かな古道から、一気に観光湯本の喧騒の中に引き込まれる。このギャップ感も楽しめれば、今日のハイクは大成功と言えるだろう。締めは湯本の日帰り温泉で汗を流すとよい。
◆おすすめコース
湯坂道入口バス停─浅間山─箱根湯本駅(2時間30分:初級向け)
※浅間山から千条の滝に下るサブコースもいい。