【第236山】三ツ峠山1785メートル(山梨県)三拍子揃った身近な名峰

 3つの峠があるわけではない。山頂部を示す「突起(トッキ)」が「ドッケ」に変化し、これに「峠」の字を当てたものといえる。3つのピーク(開運山、御巣鷹山、木無山)で構成された山というわけだ。

 姿はいい。旧500円札(知っている方はそこそこのご年配)の裏面で、富士山の手前下に描かれている山として、かつては結構有名だった。これは山梨県東部の雁ヶ腹摺山からの絵柄で、すっきりした重量感ある構図なのだが、今は様子が違う。山頂にNHKその他の巨大鉄塔が建っており、遠方からでもわかってしまうほど。景観を乱していることはさておき、通信分野で重要な位置づけにあるとはいえるだろう。

 売りは、何と言っても富士山の展望の良さにある。5本ある登山道の中で、最短コースなら往復3時間、ゆえに日帰りで登られることが大半だが、真にこの山の価値を知るなら、山頂直下の小屋に泊まるに限る。設備の良い2軒の山小屋が年中無休で営業なのはありがたい。最大のメリットは、ご来光と日没に代表される朝夕の光景をじっくりと眺められることだ。さらに夜間、河口湖方面の夜景の背後に黒々とわだかまる富士山のシルエットに、大いなる畏敬の念を感ぜずにはいられない。夏場なら、その山上部に線状の光の帯が伸びる。ご来光登山で富士山頂を目指すランプの光芒が、くっきりと眺められるのである。

小屋前から見る富士山とミツバツツジの花

 もうひとつ、この山の価値を大いに上げているのが、山頂直下にある屏風岩だろう。高度差は100mほどだが、延々と絶壁が連なっていて、ビッグウォールを目指すクライマーに格好の岩登り道場を提供してくれている。別段、登らずに眺めるだけでもいい。天空にそそり立つ岩の大伽藍は壮大で、豊富な緑の植生と相まって絵的に優れ、しかも一方には富士山が。岩に縁のないハイカーにも、じっくり巡って見物することを勧めたい。

 どっしりした山姿、山頂からの大展望、山頂直下の岩の絶景。山名の「三」にあやかり3拍子揃った手近な山として、三ツ峠山は登山者の間で揺るぎない地位を占めているのである。

◆おすすめコース
三ツ峠登山口バス停─山頂往復(3時間:初級向け)
※最短コース、オフロード車も通るルートなので安心して歩ける。