【第241山】宝永山2693メートル(静岡県) プチ富士登山へ

 「フジヤマへ登りたしと思えども、フジヤマはあまりに高し」とお嘆きの御仁にお勧めしたいのが、宝永山である。富士山の7合目付近からポッコリ盛り上がったピークで、下界からでもよく分かる。江戸中期の宝永年間(1701年)の噴火で3つの浅い火口と小ピークが出来たもので、富士山のスラリと伸びたスカイラインの均衡を乱している。この時の噴火は激烈で、大量の火山灰が降り積もり、直下の山麓で3m、神奈川県西部で50㎝、江戸でも20㎝に及んだ。当時はむろんのこと、高度にネットワーク化された現代であれば途方もない災厄となってしまう。

 最も簡単に登るのなら、富士宮口五合目まで車で上がってしまえば、山頂まで標高差は300mほど。スタート地点はもう雲上の世界。富士高山帯特有の植生の乏しい中を、鉢巻き状に歩いていく。やがて正面に宝永山と宝永火口がセットで姿を現す(写真)。赤茶けた色彩と単純明快なシルエットに圧倒される。後は小石や荒砂の急斜面をひたすら上るのみ。ズルズル滑り、一歩登って半歩後退の連続を根気よくこなしていくと、不意に東側の景観が開け、箱根や丹沢を見下ろす大パノラマが広がり、地図通りの山中湖の湖岸ラインが印象深い。そして何より、眼前の宝永火口と背後のナマ富士最上部の巨大さに圧倒される。パノラマは富士山頂の50%は保証できるから、労力の割には随分とお得感があるだろう。オンシーズンでも、ご本家よりぐっと人が少ないのも大きなポイントだ。

雄大な宝永火口と宝永山

 下りは、ズルズルで登りにくかった上りとは真逆で、足を前へ投げ出しさえすればよく、上りの3分の1の時間で下れる。そのまま往路を戻れば楽だが、余裕があれば是非にも御殿場口五合目まで下ってみたい。宝永の第2と第3火口の縁を順次巡るが、上部では不毛に近かった植生が、下がるにつれて豊かになってくるのが手に取るよう。グリーンのキルトとクリスマスツリー調の針葉樹がメルヘンな世界を醸し出している。こればかりは5合目から往復する本家富士登山では得られない、宝永ハイクならではの特典といっていい。

◆おすすめコース
富士宮口五合目─宝永山─御殿場口五合目(5時間:中級)
※五合目からの往復だけなら2時間半で初級向け
※ガスに覆われていたら、全く面白くないばかりか、道迷いの恐れもあるのでやめておくのが無難。

◆参考地図・ガイド◎昭文社:山と高原地図32「富士山」