11月16日、「非正規公務員の賃上げ、遡及改定は自治体の3割」のオンラインニュースが流れた。配信したのは『毎日新聞』。「政府は非正規公務員についても遡及改定するよう求めているが、対応しない自治体は組合に『事務が煩雑になる』などと回答しており、当事者から憤りの声が上がっている」としている。
配信記事は、「公務員は給与の引き上げを求めてストライキを行うことが禁止されるなど労働基本権が制限されており、代償措置として、人事院や人事委員会が民間給与と比較して給与を調整し、政府や自治体に勧告する制度が設けられている」と説明した。
総務省が5月に、非正規公務員の給与改定について「改定の実施時期を含め、常勤職員に準じることを基本とする」として、正規職員と同様に4月にさかのぼって改定するよう自治体に求める通知を出した経緯にも触れて、通知の目的について「非正規職員は1年任用が基本で、遡及改定がなければ勧告の効果を受けられない」と同省の担当者が説明したと報じている。
女性差別でもある
横浜市従業員労働組合も加盟する産別組織・自治労連(日本自治体労働組合総連合)によると、給与改定によって、フルタイムに近い非正規職員の年収は10万円前後増えると見込まれる。4月にさかのぼらない場合、この数字がゼロとなる。増額する自治体としない自治体で待遇格差が生まれることになるが、自治体内で正規職員との格差も拡大する。
自治労連の調査によれば、事務の煩雑さを理由に挙げる自治体もある。
毎日新聞の記事は、北関東の市役所で10年以上、非正規公務員として働いてきた女性の憤りを取り上げた。「事務が煩雑だから遡及しないのはあり得ない。私たちはそれこそ煩雑な仕事を続けてきた。非正規公務員の75%は女性で、女性差別でもある」
国は予算の裏付け
11月9日には、参議院総務委員会での質疑で、非正規公務員の給与改定にかかる費用を地方交付税の増額補正で対応すると総務省は答弁している。予算上の裏付けを与えてまで遡及改定を求めた格好だ。
翌10日には総務省自治財政局財政課が事務連絡を発出し、当該給与改定に係る一般財源所要額については、地方財政計画上の追加財政需要額(4,200億円)及び今年度の地方交付税の2,591億円増額交付の中で対応することとしているとして、「留意されたい」と念を押した。
「ネコババじゃないか」
会計年度任用職員にはストライキ権がない。代償措置のない労働基本権制約には、かねてから憲法違反でさえあるとの指摘がある。
自治労連の確認によると、追加財政需要額により対応することとされた額が追加財政需要額を下回っても、後年度の地方財政計画での精算は行われない。未使用に相当する額を返還するような取扱いがないとすれば、自治体が賃上げを先送ることへの不満の声は当然だろう。
勤続30年になる、非正規公務員の処遇改善に取り組んできた組合役員は、年度内の差額支給をあきらめていないと話す。「遡及しないなんて、まるでネコババじゃないか。ネコババはよくないよな、そうだろう」