【第258山】伊吹山1377メートル(滋賀県)本州くびれのナンバーワン!

 日本百名山だが、標高で低い方から3番目、絶対的にはさほどの山ではない。だがこの山の相対的存在感は計り知れない。周囲数十㎞に渡り、より高い山はないし、なにより本州で一番くびれている伊勢湾と若狭湾を結ぶラインのど真ん中、中部と近畿をつなぐ重要なポイントに鎮座している。そしてとにかく下界から目立つ。石灰岩でできた巨大なドーム状の山頂部は周囲に比肩するものもなく、遠方からでも見分けることは容易だ。

 位置的重要性は、そのままこの山の価値を高めている。まずは植生。太平洋・日本海から等距離にして近接、双方の気象の影響を受け、双方の植生が混在、さらに石灰岩の地質が様々な変異種を育み、ニッポンでも有数のバラエティー豊富な植物相を誇る。

 一方、ニッポン中央のくびれ部は人間活動の交差点でもあり、山麓は歴史事件の宝庫となっている。天下分け目の関ヶ原は伊吹山のおひざ元。現在も東海道線、新幹線、名神高速道が南麓の狭隘部に集中し、車窓から間近に仰ぐ伊吹山の雄姿が目に焼き付く。

西麓から。石灰岩の採掘跡が痛々しいが。

 こうした重要ポイントに付けている裏返しで、山頂からの眺めも素晴らしい。西から南は人文エリア、琵琶湖の大きさに驚き、歴史が詰まった近江一帯から濃尾平野までの山と町の交錯に感無量。反対側の東から北側には山々が果てしなく連なる。ニッポン山岳地帯の最集中部を奥行き豊かに眺める贅沢さは比類がない。それらの前景として、足元に広がる一面のグリーンの中にカルスト地形の石灰岩が点在、絵的に素晴らしい。山頂一帯は広大だが緩やか、逍遥気分で大パノラマが満喫できてしまう。

 登山者目線で残念なのは、これほどの山に実は簡単に登れてしまうことかもしれない。ドライブウェイが9合目まで通じ、軽装でこの大観をゲットできる。惜しむらくは、お気楽さゆえか山頂に泊まる人がごく少ないことだ。山小屋泊なら琵琶湖を取り巻く夜景が欲しいままだし、朝方には重畳とした山岳地帯から登る朝日が神々しい。体力に自信のない人にも超一流の山岳風景を披露してくれるのが、伊吹山最大のセールスポイントと言えよう。

◆おすすめコース
 ドライブウェイ駐車場─伊吹山︱西回り─駐車場(1時間半、初級向け)※下界の登山口からなら往復6時間の本格ハイク
◆参考地図・ガイド:「伊吹山登山マップ」で検索して米原市のホームページへ