【第263山】八本歯ノ頭2923メートル(山梨県)北岳の最高の展望台

 ニッポン標高第2位の名峰である、南アルプスの盟主:北岳。当然ながらハイカー人気は高く、登路のひとつ:大樺沢ルートを多くの人が利用する。延々と登ってきて、ようやくたどり着いた稜線は八本歯のコルと呼ばれるスポットで、左右にルートが分かれる。大半の人は右折して、お目当ての北岳や直下にある山小屋を目指すのだが、殆ど顧みられない左折コースに八本歯ノ頭がある。

 奇妙な山名は、ギザギザの岩が連なる尾根上の最高地点を「頭」と名付けたもの。小ぶりな岩峰が次から次へと現れ、一つひとつ上り下りする。梯子の架かる岩もあるが、頼り無げなロープの下がる岩もあり、ここはロープ頼りにせず、手と足でよじ登る。岩登りのグレードとしてはごく低いので、慎重に登ればフツーのハイカーでも問題はない。ただ、軽装であるに越したことはなく、先のコルに主な荷物は置いておいた方がいいだろう。

 すべての岩峰をクリアして、最高地点:八本歯ノ頭のピークに至る。展望が圧巻だ。一帯の主役である北岳は姿もいいが、東面はバットレス(控え壁)と呼ばれる、圧倒的な大岩壁で構成されている。八本歯ノ頭からは、まさに真正面、迫力が半端ないし、青空に聳え立つスカイラインはこの上なく気高い。とにかく北岳を眺めるなら、これほどの好地はなく、訪れる登山者が少ないのは如何にももったいない。少々剣呑ではあるが、コルから往復30分足らずなのだから。

八本歯ノ頭から見る北岳バットレス

 余裕のある人は、八本歯からさらに先に延びる稜線をたどって、ボーコン沢ノ頭まで行こう。ハイマツのヤブがうるさいが、岩場はなく緩い上り下りの果てに到達できる。実に広大な山頂で、北岳からは遠ざかるが、引いた分だけパノラマが広がり、北岳を含む白根三山の眺めが素晴らしい。凡そニッポンの山岳展望の中で、豪快さ・まとまり度ならトップと断言できる。

 帰路は下りになるので、上りより慎重に。設置ロープは頼りないが、支点はしっかりしているので、20m程の補助ロープを持参すると安全度が高まる。北岳に登るほどの人なら、是非にも立ち寄って、北岳の素晴らしさを、あらためて再発見して頂きたい。

◆おすすめコース
 広河原─八本歯ノ頭─北岳山荘(泊)─北岳─広河原(所要12時間、中級向け)
◆参考地図・ガイド:昭文社 山と高原地図44「北岳・甲斐駒」