6月21日、新たな国際労働基準が誕生しました。「仕事の世界における暴力とハラスメント(嫌がらせ)の除去に関する条約」が国際労働機関(ILO)で圧倒的多数の賛成で採択されました。
実効性ある権利保障を
ハラスメントを規制する初の条約。ハラスメントを「身体的、精神的、性的、経済的な危害を加える行為」と包括的に定義し、禁止する国内法整備を求めています。
保護の対象は、雇われて働く労働者だけでなく、契約上の地位にかかわらず働く人々、実習生など訓練中の人、ボランティア、求職者のほか、使用者としての職務に従事する人も含めています。
客など第三者からの加害も考慮すべきとし、女性などハラスメントを受けやすい「脆弱(ぜいじゃく)なグループ」に対する権利保障を、実効あるものとするよう各国に対策を求めています。
日本政府は昨年の総会では、賛否を表明せず、後ろ向きの発言を繰り返していましたが、今年は賛成票を投じました。先進国政府の多くが賛成する中、日本だけが反対することができなくなったとみられます。
ただ、経団連の使用者側委員は棄権票を投じています。棄権は主に中南米と一部の欧州の使用者、ロシア政府などです。米国は政労使が賛成しています。
勧告との同時採択
条約は勧告もセットで採択されました。勧告は、条約の実効性を高めるためにより詳細に定め、批准しない国に対する指針の役割を果たしています。
「セット」での採択は、前回が2011年の家事労働者のための条約、その前は2000年の母性保護条約にまでさかのぼらなければなりません。
国際労働基準が増えることに使用者側が抵抗を強めているといわれます。そうした中、近年、性暴力被害を告発する女性たちの運動が世界中に拡散。その規制が喫緊の課題となり、条約制定にこぎ着けたのです。
条約批准で責任果たそう
日本が批准するには、新たな法整備が必要です。
6月26日閉幕した通常国会では、事業主にパワハラの防止措置を義務付ける法改正が行われました。しかし、条約が求める「禁止規定」の創設が見送られたため、現行法のままでは批准ができません。基本的人権の確立や労働条件の改善など、世界共通のルールとして機能するのが国際労働基準です。
特に、今後成長の核となるとされるアジア地域で、国際労働基準が定着し浸透することは、暮らしを向上させる経済発展の実現に欠かせません。ILO理事を出し、アジアの先進国といわれる日本がしっかりこの条約を批准し、各国の模範となることが求められます。
国内でハラスメント禁止の法整備を行うことが、途上国でのルールづくりに結びつく。これこそ先進国が果たすべき責任の一つだといえます。
ILOとは
187カ国の政労使で構成。第1次世界大戦を終結させた「ベルサイユ条約」によって設立されました。
憲章前文で「世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することができる」と明記。国内で社会正義が踏みにじられていると世界の平和に悪影響を及ぼすという考え方に立って、これまで190の条約を定めています。