英彦山と書いて「ひこさん」と読む。きわめて古い歴史があり、元々は日子山だったのが平安初期に勅により彦山に、江戸時代に英の字を冠して英彦山と、名が出世してきたわけである。出羽の羽黒山、大和の大峰山と並び日本三大修験道の霊場として広く信仰を集め、多くの宿坊に多数の修験者を集めていた。それが明治の廃仏毀釈で見る影もなくなったが、今日では壮麗な英彦山神社が多くの参詣客を招き寄せている。
ハイカーとしては、古の修験者宜しく、山頂の奥社を極めたいところ。神社の脇から登山道が延びるが、鬱蒼としたスギ林の中に、歴史の重みを感じさせる石畳の階段などが延々と続き、いやが上にも霊感が高まってくる。中峰が近づくと絶頂部に奥社の屋根が見え、神社と言うより城郭のようだ。山上の霊域に期待はいよいよ膨らむが、9合目で樹林が切れ展望は良くなるものの、これまでの重厚な社叢林からするとなんだか荒れてしまっている感じ。さらに待望の奥社だが、近づくと板壁は風化し、神社標識はひどく傾いている。裏手の展望が良い所に周ると、朽ちかけた資材類が雑然と置かれ、神域ムードはぶち壊しだ。屋根を支える垂木はあちこちで落ちかかり「近づくと危険」の看板まで。より高い南峰には、社の代わりに展望台があるのだが、これも老朽化で立入禁止。どうにも英彦山とはその名声と歴史の割には、ちょっと残念な山頂部なのである。
もちろん、山頂が英彦山のすべてではない。少し遠回りになるが周回ルートには、樹齢1200年の鬼杉や岩窟の神社などがあり、3大修験山に相応しい道具立てが揃っている。格式の高さでは超一流なのだから、山頂の残念状態も遠からず改善されると思うのだが。
最後に神社に戻ったら、要チェックのご当地グッズがある。それが「英彦山がらがら」。魔除けの土鈴なのだが、ニッポン一扱いにくいお土産かもしれない。強く握ったり、少々の高さから落としただけで粉々に砕け散ってしまう……。
ちょっと残念な山頂と、注意して持ち帰らないと残念なお土産と。天下の霊峰:英彦山は、人間世界の変転を暗示してくれているのかも。
◆おすすめコース
銅鳥居-英彦山神社-英彦山(往復3時間30分:初級向け)※周回ルートは5時間ほど
◆参考地図・ガイド ◎昭文社:山と高原地図55「福岡の山々」