「動揺と盲従の果てに」 カジノを問う vol.4

 これまでの連載で見てきたように、今回のIR誘致は住民の共同利益への対立ばかりが目立つ。誘致に邁進する林市長の姿勢は不可解だ。その背景には何があるのだろうか。なぜ住民の望まない施策が生まれるのだろうか。

 日本におけるカジノ誘致議論は1999年石原慎太郎都知事(当時)が提唱した「お台場カジノ構想」に端を発する。その後、国会内に超党派のカジノ議連が発足し、米カジノ大手からパーティー券購入によって自民、現在の維新および立憲の議員らに資金が提供されていたことは『文春』報道の通りであるが、国民の反対世論を背景にカジノ合法化の議論は長年に渡って実りを見せなかった。

 動きが出たのは2016年11月に米大統領選挙で日本政府としても予想外であったトランプ氏勝利の直後である。

米国と日本財界のためにカジノを解禁

 米国による経済や軍事分野での対日支配構造の中で私腹を肥やしてきた日本財界の利益を最優先するため、歴代保守政権は国民生活や国益を犠牲にしてまで日米安保体制にしがみついてきた。トランプ大統領誕生で日米同盟の先行きが読めず安倍政権内に動揺が生じただろう。

 政治家としての経験が一切なかったトランプ大統領と日本政府の間に交渉ルートは存在せず、日本政府はソフトバンクの孫正義社長とトランプ大統領の最大のスポンサーであるシェルドン・アデルソン氏の結びつきを使ったと言われている。そしてこのアデルソン氏こそ横浜へのIR誘致で最有力とされている米国カジノ最大手ラスベガス・サンズの会長である。

 2016年の米大統領選直後の11月17日に安倍首相はニューヨークのトランプタワーを訪れ、トランプ次期大統領(当時)と会談した。それから1か月後の12月15日に安倍政権は突如として「カジノ解禁推進法」を強行採決した。しかも具体的な規制などは後回しにする異常な方法で。

 米国の独立系報道機関『プロパブリカ』は、アデルソン氏が孫正義氏を「日本におけるカジノリゾート計画の潜在的パートナー」として指名しており、孫氏が同月6日にトランプタワーを訪れトランプ氏と会談し、米国に対して約5・7兆円の投資を約束したと報じている。以前からソフトバンクは米国で所有する通信会社スプリントとTモバイルの合併を切望していたが、それには大統領のゴーサインを必要とし、2019年7月に米司法省から承認された。

市長は米カジノ資本と安倍政権の代弁者か

 2017年2月10日にホワイトハウスにおいて日米首脳会談が行われ、その夜にはトランプ大統領とアデルソン氏が夕食を共にしている。米『ニューズウィーク』によれば、翌朝に安倍首相はアデルソン氏を含む米国CEOらとともに首都ワシントンの米商工会議所で開かれた朝食会に出席し、アデルソン氏から直接カジノの話題を持ちかけられたそうだ。この訪米から約1年半後に安倍政権はIR実施法を強行採決した。

 今回のIR誘致は日米同盟の安定に資するのであれば日本国民の財布を差し出すことを厭わない安倍政権と、日本を2・5兆円のギャンブル市場と見込みカジノ解禁を目論むアデルソン氏との利害関係が一致した結果だろう。林市長は菅官房長官に操られるまま市民の声を無視して淡々と安倍政権の政策を執行しているのではないか。

一致する米IR事業者と国内資本の思惑

 それにしても、なお奇妙なのは横浜市内の動きである。
 2014年8月15日に京急は自身が中心となり企業連合を形成してIRを整備する構想を発表した。2016年4月28日には横浜商工会議所内にIR作業部会を設置し、京急の原田一之社長が座長に就任している。

 つまり、トランプ氏が大統領選で勝利するまでは国内と地元資本でIR解禁に向けた構えがつくられていたのに、トランプ大統領誕生と共に米国資本のIRを押し付けられた格好になったのだが不思議と反発はない。

 数千億円規模の投資を厭わず、IR運営のノウハウは持ち合わせているが日本でのサービス提供の経験がないラスベガス・サンズと、自分たちでは大規模な投資をせずにIR事業への参画でき、日本人向けのサービス提供に慣れている国内や地元資本との思惑が一致したのではないだろうか。

 いずれにしても、歴代保守政権は米国の対日支配の許す範囲内でしか日本国憲法に明記された住民自治や幸福追求権などの国民の諸権利を認めず、日本財界とアメリカの利益を最優先とし、あたかも当然のように日本国民を犠牲にしてきた。こうした政治の歪みの上に横浜へのIR誘致が立ち現れていることは疑いようがない。