巷に○○アルプスと称するミニ山地は多い。本家日本アルプスに似ていようがいまいがお構いなし。山が数座連なっていて、縦走できるようなルートがあれば条件はクリア、晴れて○○アルプスを名乗ることになる。実際には「これがアルプス?」というような自称アルプスが如何に多いことか。県内をざっくり見渡してみても、ご存知鎌倉アルプスはじめ、三浦アルプス、藤野の日連アルプス、などなど。アルプスなる称号は身近な山の連なりとしてブランド化しているわけだ。
そんな数多の低山アルプスの中で、山脈の見栄えと歩き応えの点で些かなりとも本家に近いのが沼津アルプスである。標高は400m未満ながら海岸近くから急峻にそそり立ち、なによりアップダウンが激しい。低山だからと舐めてかかると痛い目に遭う。しかしその分、コース全体が実に変化に富んでいて、飽きの来ない手応えハイキングが楽しめるのである。
コース中にはロープが多い。実際、ロープ無しでは下りなど覚束ない所も多い。さらには本場アルプス宜しく小さな岩稜帯もあって、高度感はないもののちょっぴり緊張できる。意外に良いのが植生だ。植林も多いが、備長炭の原料として名高いウバメガシの純林なども点在、原生林のムードに浸らせてくれる。
そしてなにより、このアルプスの見所はその展望にある。随所でパノラマが開け、それぞれ違った風景として楽しめるのである。極めつけはやはり富士山。前衛の愛鷹山越しになるのだが、宝栄火口を前面にさすがの優美さ・気品の高さで魅せる。箱根火山も全山が見えるが、丹沢方面から見る引き締まった姿からすると、間延びした感じで実にゆったり。そして海間近の山だけあって、眼下すぐの真っ青な駿河湾と背後の伊豆の山々、遠く南アルプスの白銀の峰々が素晴らしい。山と海の双方が、偏りなく存分に見られる山などそうそうないだろう。
最後のお楽しみが下山後。沼津は名だたる海鮮の聖地だ。新鮮度満点の食堂、土産の数々。登っても下りても海絡みで欲張り出来ることから、いっそ「海鮮アルプス」と洒落こんでみるのも一興だろう。
◆おすすめコース
香貫台-徳倉山-鷲頭山-多比(4時間:中級向け)※想像以上に厳しいルート、足回りもしっかりと
◆参考地図・ガイド ◎昭文社:山と高原地図31「伊豆」 ※「登りたいのは山々」に掲載の写真は市従のHPでご覧いただけます。