横浜市は「横浜IR(統合型リゾート)の方向性(素案)」(以下、素案)を公表し、3月6日から4月6日までの期間でパブリックコメントを実施している。
今回の素案はIR誘致に関する全体像を初めて市民向けにまとめた資料といえる。
素案によれば、「IR実現による効果」で年間820億~1200億円が横浜市に入る。現在の法人市民税収が年間600億円程度であることから大幅な収入増が見込まれるような書きぶりだ。
しかし、この試算はカジノ納付金収入と入場料収入、法人市民税、固定資産税、都市計画税を合わせたものであり、横浜市が独自試算した数字ではなく、IR事業者による営業目標を根拠としたものでしかない。試算の仕方があまりにも無責任だ。
しかも、素案ではIRからの主な収入と見込まれるカジノ「納付金と入場料収入の使途」として、まず「IR区域の整備」と「カジノ施設の設置・運営に伴う、懸念事項の排除」が挙げられている。IRからの収入の多くはIRに還元するのである。
IR誘致を市長が決めた根拠だったはずの「人口減少社会の到来」と「超高齢化社会が進展」することによる「税収減や収支不足を補う」という文言は最後に書かれており、「IRに還流させて金が余ったら」と言わんばかりである。
また、驚くべきことに3月12日に明らかとなった「横浜IRの実施方針(案)の骨子について」によれば、実施協定で定める範囲で市が「IR事業におけるリスク」を負い、IR事業が困難となった場合には修復に向けて設置自治体とIR事業者で役割分担するとしている。
あれだけ民設民営を強調しながら、誘致のために1000億円を超えるインフラ整備をするだけでなく、営業開始後に事業がうまくいなければ税金でIRを支えるのだ。
横浜市は観光産業、とりわけIR関連事業を横浜経済の柱とするような態度に固執している。しかし、今回のコロナウイルスのような疫病や繰り返す自然災害と経済危機に対してあまりに脆弱であり、安定した税収は望めない。
その上、IRの中心はカジノであり、人の不幸の上に成り立っている。福祉の増進を任務とする行政が推進すべき産業ではない。
林市長は市税収入の多くを個人市民税に頼っていることが横浜の弱みであるかのように言うが、個人市民税こそ安定した財源ではないだろうか。
大企業優遇に偏重した政策ではなく、市内の安定した雇用と賃金を保障するために市内中小企業への抜本的な支援と、横浜で安心して子どもを産み、育て、住み続けられるように認可保育所の増設、小児医療費の無償化拡大、中学校給食の実現など市民要望を実現する政策こそ少子高齢化を解決する道筋である。