下界から見る山岳景観の中では、富山平野からの北アルプス北部が最高のものだろう。標高差はズバリ3000m、国内でも特に雪の多い山岳地帯だから、白銀の峰々が余計に引き立つ。その中で富山平野に最も近いのが大日岳である。立山の前衛として、古来信仰の山として親しまれてきた。里に近い分、標高の割には山姿が堂々と見え、余計に尊崇されたものと思う。
里に近い分、登り易いから、本来なら人気絶頂の山であって然るべきはず。が、今日の大日岳は不遇をかこっている。登山者の少ない実に静かな山なのである。ひとつには、より奥にメジャー過ぎる山が目白押しであること。立山、剱岳、その他大勢。背後がかようにスター揃いでなければ、単独の大日岳は遥かに注目を浴びていたはずだ。
そして決定的であったのが、立山黒部アルペンルートによって、奥にあるはずの人気峰の方が、便が良くなってしまったことだ。実際、大日岳より立山登山の方が遥かに楽勝。わざわざ手間暇かけてマイナー山に登るのは奇特な登山者だろう。さらに不運なことに、大日岳の奥に連なる奥大日岳の方が100m程高く、そちらが栄光の日本二百名山に選定されてしまった。下界から至近なのに不遇な山、それが大日岳なのである。
しかし大日岳の登山コースは役者揃いのゴールデンルートでもある。まずは登山口にニッポン一の落差を誇る称名滝があり、一段登れば山上の楽園ともいうべき大日平の湿原に至る。もう一段登ると稜線上に出るが、ここにランプの宿として名高い大日小屋があり、小屋から山頂まではごく近く、大展望と夕陽の絶景が思いのまま。さらに翌日、奥大日岳に向けての稜線歩きでは、左右にバランスの取れた剱岳の姿が超絶に格好いい。ここは不遇を逆手にとって、絶景を独占できる栄えに浴してみては?
さて、大日岳が意外に良く見えるポイントがある。立山方面から眺め下ろすと、雪まだらが印象的な室堂平の背後を締めるように、大日・奥大日の稜線が連なる。上から目線なのに実に立派。不遇などとは、とんでもない、と言いたげな大日岳の晴れ姿である。
◆おすすめコース
称名滝─大日平─大日岳と大日小屋(泊)─奥大日岳─室堂(11時間:中級向け) ※逆回りにすれば下りが主体になる。
◆参考地図・ガイド ◎昭文社:山と高原地図37「剱・立山」