【第181山】 恵庭岳1,320メートル(北海道)人的破壊と自然崩壊の狭間で

 滑降といえばアルペンスキーの花形だ。男子なら800m、女子で600m程の標高差の急斜面を、時速100㎞超の高速で一気に滑り降りるスリリング極まる競技である。ところがこの膨大な標高差が曲者。ここまでの条件を満たすスキー場はおいそれとはないため、オリンピックの度毎に大規模な開発を余儀なくされ、自然保護との絡みで物議を醸してきた。

 1972年の札幌五輪で滑降コースが設定されたのが、支笏湖畔に秀麗な姿でそびえる恵庭岳である。エゾマツなどの原生林で満たされていた山腹を広範囲に渡って伐採、コースのみならず本格的なロープウェイやスタート台なども造営された。ただし整備の条件は「オリンピック後は原状復帰」、つまり五輪限定コースだったのである。

 恵庭岳は、巨大なカルデラ湖である支笏湖の北西岸から噴出した火山だ。山名は、アイヌ語のエエンイワ(頭が尖っている山)から来ている。その名の通り山頂部には溶岩ドームがあって、山裾から見事に引き絞られた秀麗な山容が印象深い。絶頂からは遮るものの無い大パノラマ、とりわけ眼下に碧い水を湛える広大な支笏湖に圧倒される。

 ところが恵庭岳は不安定な火山でもあり、山頂ドームが崩落気味であることから、ここ20年程山頂は登山禁止になってしまっている。現在登れるのは標高1200m程の第二見晴台まで。ただここからでも広大な支笏湖のかなりの部分は見られるし、北海道3大秘湖とも称されるオコタンぺ湖の眺めもいい。

 さて復元工事が行われたコースだが、札幌五輪から50年を経過した今日、航空写真では目を凝らさないとわからないくらいまでにはなっている。ただし現場観察ではまだまだ原状復帰には程遠いようだ。あらためて自然復元の難しさを思う。一方で山頂への登山も、20年経っても叶わない。ただこちらは自然を破壊したのではなく、いわば自然からの破壊。状況が落ち着けば、以前と変わらぬ登山が楽しめるだろう。こんな例は全国にも多い。悠久の山の歴史の中では瞬時の出来事なのだと割り切りつつ、山頂ルート再開を楽しみに待ちたいものである。

◆おすすめコース
ポロピナイ登山口─第2見晴台(往復5時間:中級向け)
※第2見晴台まででも恵庭岳パノラマのエッセンスは十分に得られる。ただしロープなど多く、なかなか手強いコース。

「支笏湖畔に浮かぶ恵庭岳」上の写真をクリックすると別のタブで大きく表示します。

◆参考地図・ガイド ◎昭文社:山と高原地図2「ニセコ・羊蹄山」