「苗場」と聞いて連想するイメージは? ウィンタースポーツやレジャーのトップリゾート、バブリーの権化……。では、そもそも「苗場」の名の起源は?
これは近隣にある苗場山が語源であることは明白だ。ただ苗場リゾートからすると、かなりの奥山に当たる。しかも苗場山そのものの由来はというと「苗を植えた場所」。山上に湿原があり、水面に生えるスゲ草の類が、田んぼに植えた稲の苗のように見えることから。つまりは農事由来の命名なのである。なぜ都会やリゾートとは真逆のネーミングをあえて持ってきたのか、西武グループの意図はよく知らない。しかしブランド名は独り歩きする。今や苗場といえば、押しも押されもせぬメジャーネームとして我々の脳裏を占めている。
さて苗場山である。山のスタイルとしては相当の異端児で、周囲は急峻に切れ落ちているのに対し、山頂部は広大で平ら。ニッポンには数少ないテーブルマウンテンの典型なのである。山上部すなわちテーブル上面の面積は2㎢近くにも及ぶ。湿原が主体なので、まるで尾瀬ヶ原を山上に持ってきた様だ。ただ尾瀬と違うのは、平らとは言ってもそれなりに傾斜があり起伏に富むこと。また標高が高いので尾瀬ヶ原には無い針葉樹林が点在していて、湿原と相まって北欧湖水の景観にも見えることだろう。
木道がよく整備されているので気軽に散策できる。樹林に区切られた湿原、ところどころに姿を見せる池塘(湿原に点在する池)には丈の短い直立した水草が生え、なるほどこれが苗場のイメージかと納得がいく。形の良い岩が散在し庭園調の所もある。尾瀬よりは余程変化に富んでいて飽きさせない。
山上部は漫歩の感覚なのだが、その形状故に登り着くまでが急峻極まりなく、登山口からの距離も遠い。にも拘らず、シーズンの休日ともなれば登ってくるハイカーで盛況となる。山上楽園のムードを求めてのことだろうが、名前の持つ響きも一役買っていよう。
「苗場山に登ってきたよ」といえば、山を知らない人にも何となく通じてしまう心地よさ。「苗場」の名は、登山目線からしてもブランド化しているのである。
◆おすすめコース 祓川駐車場─苗場山(往復7時間:中級向け) ※湿原散策にはプラス2時間ほど欲しい。山頂の小屋に泊まるのがベスト。