1月19日、日本経営団体連合会(経団連)は、財界の春闘指針となる「2021年版経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)を発表しました。賃金部長による検討・分析を掲載します。((下)はこちらから)
報告では、コロナ禍によって企業を取り巻く経営環境が激変し、先行き不透明感が一層強まる中、事業継続と雇用維持の観点から自社の支払い能力を踏まえ、労使協議を経て企業が決定する「賃金決定の大原則」が重要としています。
そして、「コロナ禍の影響で業績が大きく落ち込んでいる企業がある一方で業績が堅調な企業もあるなど、業種横並びや各社一律の賃金引き上げを検討することは現実的ではない」としています。つまり、春闘の「横並び賃上げ」を否定し、個別企業の「総額人件費」管理徹底を強調しているのです。
同時に、職務等級・資格別や階層別の配分、業績・成果等らによる査定配分、事業継続と雇用維持を最優先とすることも強調。労働者の生活を顧みず、賃金引き上げの企業としての社会的な責任を全く果たそうとしていません。
コロナ禍の雇用については、「業績が急激に悪化した企業においても、雇用調整助成金等の政策的支援を活用しながら最大限の雇用維持に努め、その結果、リーマンショック時に比べ、失業率は低水準にとどまり、社会不安は相当程度抑えられてきた」と評価しています。
ですから、実際にリストラされ生活破綻に追い込まれる多くの非正規労働者や女性労働者の厳しい実態には全く触れていません。
また、労働力不足の解消にもデジタル化が有効であり、農業・介護・医療・建設等人手不足が顕著な業種での活躍が期待できるとしていますが、真の原因である劣悪な労働環境の改善については触れていません。
労働時間法制に関わっては、働き手の価値観が変化し多様化しているとしたうえで、コロナ禍で多くの働き手がテレワークを経験する中で柔軟な働き方を求めるニーズが高まっているとして、労働法制の見直しを求めています。
具体的には、裁量労働制の対象拡大やテレワークなど柔軟な働き方と称し、規制緩和を行う労働者保護制度の改悪を狙っています。特に、副業・兼業、テレワークなどでは、労働時間の概念を外し、時間外労働に対する割増賃金支払義務が免除される法的効果を与えられるものとして、成果に応じた報酬を得られることを可能とすることを求めています。
つまり、時間外勤務の割増分どころか本来払うべき賃金を支払わなくても良い制度をつくろうとしているのです。見逃すわけにはいきません。