【論文紹介】気候危機まねく資本に対抗する近道はない

 人類の活動が気候変動に甚大な影響を与えている現在、我々は事態をどのように捉え、どのようなアクションを取るべきでしょうか。

 米外交問題評議会の『フォーリン・アフェアーズ』2020年1・2月合併号に掲載された同評議会シニアフェローのアリス・ヒルと、世界資源研究所持続可能な金融センターのグローバルディレクターであるレオナルド・マルティネス=ディアスによる小論「温暖化への適応か国の消滅か―気候変動が引き起こす大災害の衝撃に備えよ」(邦訳はアンソロジー47巻、2021年1月に所収)は、巨大資本がつくり上げた大量生産、大量消費、大量廃棄の構造の是正ではなく、「人間が何をしようと、気候変動の一部が定着していくことを認める」ことを求めています。「社会階層でいえば貧困層と弱者が最大の打撃を受ける」と認識しつつ、「気候が変わらないことが前提とされている」建築基準の見直しや「合理的なコストでは援助や保護ができない地区で暮らす人々の移住」を解決方法と言い、「慎重な借り入れと増税」による費用の調達、洪水のリスクが高い地域の居住制限、政府の氾濫原(河川に近い低地部分)に対する洪水保険料補助の打ち切りを主張。結論は「温暖化した世界で生き残り、健康と繁栄を維持できる新しいシステムを導入していく必要がある」。

気候危機の代償は貧困層が支払わされる

 資本には地球を消費しつくす自由を認め、リスクやコストは被害者の民衆に転嫁して危機への順応を迫る小論は、その先に、人類が生存不能な地球環境すなわち破局が待っているとは疑いません。

 反対に、「現在直面している危機に対する希望について書かれています」と書き出すのは、Campaign against Climate Change(英国における気候変動を解決しようとする活動家と労働組合の運動体)が2014年に発表したブックレット「100万人分の気候雇用を」(原題はOne Million Climate Jobs、未邦訳)。気候活動家と労働組合が「政府に対して100万人分の気候雇用を生み出させるためのたたかいを決意」することを促します。危機の解決には「石炭、石油、天然ガスの既存の埋蔵量のほとんどを地下にとどめておく」ことが必要と説き、「エネルギー需要を満たすだけの風力、太陽光、波力、潮力発電所を建設」し、「省エネのために既存の住宅やビルを断熱や改修」し、「再生可能エネルギーで稼働する大規模な公共交通システムを運営」する労働者が今すぐ必要だと主張。特筆すべきは、政府が減税や補助金などで再生可能エネルギーなどの導入を促す施策では「あまりに遅すぎ」るとして、民間企業に委ねることの非効率性を指摘し、政府に直接雇用された公務労働者が迅速に気候行政にあたるべきとの訴えです。

 同団体の試算では、今後「20年間で86%の二酸化炭素排出量を削減」することが可能で、利用料収入で必要な費用の2/3は回収可能。残りもこれまで優遇されすぎてきた高所得層への適切な課税で賄います。次いで石油や自動車関連などの大量に二酸化炭素を排出する産業の規制から発生する失業者に対して十分な職業訓練と良質な100万人分の気候雇用を提供します。そのサプライチェーンなどから50万人分の雇用が生まれ、失業中の人々にまで職を与える、グリーンな経済成長への希望を提示します。「大国が経済をコントロールし、できるだけ多くの人々を殺し、戦争に勝つために、できるだけ早く、できるだけ多くの武器を製造するよう産業界に指示を出した」第二次大戦の「前例」を反転させて、「この再軍備ブームは、政府を破綻させることなく、むしろ雇用を創出し、全世界を大恐慌から救い出すことになった。私たちは今、命を救うために同じことをするのだ」と諭すところも興味深い。

 こうしたグーリーン・ニューディール政策(GND)を推し進める力の所在について著したのは、米シラキュース大学地理環境学教授マット・T・フーバー「気候変動に関する近道は今も存在しない」(CATALYST誌への寄稿。邦訳は『月刊全労連』11月号に掲載)。気候問題に関心が高いと目された民主党オバマ米大統領の在任中2015年に米国内の原油生産量は2009年比で89%増加し、共和党トランプ政権がオバマの築いた足場の上で「産業界が守るべき100以上の環境規制を無効にし」、パリ協定を離脱したことと、民主党バイデン政権が「化石燃料企業から多額の献金を実際に受け取っていた事実」を挙げ、「政治的陳情や口先の説得によって、バイデンを左へと押しやることが可能だという考えは現実的でない」と断じます。未だGNDは労働者階級に根差しておらず、「私たちはまず、有能な労働者階級の組織を構築する必要」があり、「エネルギー転換は戦略的な労働協約と組織的労働者によって長期的にコントロールされない限り、一種の『緑の資本主義』によって破壊される」というのがフーバーの警告です。

 10月31日から英国のグラスゴーにおいて国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開催されました。首脳級の会合が回を重ねても気温上昇が抑え込まれない現実を見るとき、「国家を動かすことができ、また動かすであろう唯一のものは、労働者階級の組織と行動」であり、「この困難な仕事を遂行する上で、私たちに近道はない」との締めくくりは、説得力を帯びてきます。

本部・行財政部担当書記