賑やかな箱根火山の中央部から南東に外れた、番外地のような所にわだかまる小火山が幕山だ。箱根で名の聞こえた山の中では一番小さい部類に属する。にもかかわらずそれなりに目立つのは、ドーム状に山の一塊が盛り上がったその姿だろう。見る角度によっては角を丸くしたピラミッドのようにも見え、なかなかインパクトがある。
山麓は梅の名所として名高い。幕山公園である。2月半ばから3月初めにかけて、幕山の裾を包み込むように、白梅や紅梅が埋め尽くす光景は絶品だ。幕山への登山道は梅を見ながらで何とも贅沢。少し高度を稼げば、梅園が立体的になって全く違った装いで魅せてくれる。背後に屹立する岩壁群「幕岩」とのコラボも見ごたえがある。
梅園を過ぎ、中腹には休憩舎があるが、その少し先、道のど真ん中に幅1m近い大きな岩がでんと居座っている。すぐ脇の斜面がえぐれていて、そこから転がり落ちたのだろうと推測が付く。岩の表面に何やら書いてあるが、実はこれ、東日本大震災の時に転がり落ちた岩なのである。幸いにもここでの人的被害はなかったようだが、震災の記憶を残すために撤去しないのかもしれない。それなら石屋に頼んで、しっかりと縁起を刻んでおけば、この上ない震災モニュメントになるのでは? 思いもかけない所で震災遺跡と邂逅するのは、却ってインパクトがあると思うのだ。
山頂は広くゆったりしていて休憩に絶好。この先は是非とも北東方面へのルートをたどってみたい。まずは深い森の中にたたずむ「自鑑水」だ。石橋山の合戦に敗れた源頼朝が池の水に映る姿を見て再起を決意したという故事がある。大きな水溜まりといった風情だが、800年以上前の池が現存していることに歴史の重みを感じる。ついで南郷山に至る。少し東側に下ると、幕山を上回る相模湾の大パノラマが開ける。
帰路のバス停前、五郎神社では周辺の樹々の大きさに驚かされる。これで一巡、観光・震災・展望・歴史・巨樹、バラエティー溢れるポイントが随所に配され飽きる暇なし。小ぶりな幕山ながら、賑やかしが身上の箱根のDNAは脈々と息づいているのである。
◆おすすめコース
幕山公園─幕山─南郷山─鍛冶屋(3時間半:初級向け)
※逆回りも良い。梅のシーズンにはバスが幕山公園まで入る。
◆参考地図・ガイド ◎昭文社:山と高原地図30「箱根」