旭岳とか朝日山など、「アサヒ」を語源とする山名は多い。同じく太陽が起源でも「夕日」関連の山名となると10分の1に過ぎないから、ニッポン人のサンライズに対する憧憬の深さが忍ばれよう。
そんな旭(朝日)関連の山の筆頭とくれば、北海道は大雪山系の主峰:旭岳だろう。標高は、北海道は元より東北の大半を含めてもナンバーワン、最寄でより高い山となると尾瀬の燧ヶ岳まで遠ざかってしまう。とてつもなく広範囲でのお山の大将といえる。しかも地図を見れば一目瞭然だが北海道のヘソ:ど真ん中に蟠踞している。まさに北の女王といった風格を感じるのである。
登山対象としても逸品だ。北海道の屋根とも称される大雪山の核心にあるだけのことはあり、山頂からは四囲に遮るものがない。しかも如何にも北海道らしく、せこせこしない実に大らかで闊達な大パノラマが展開する。さらに嬉しいことには天候等の条件さえ許せば、山の初心者でも容易にその山頂を踏ませてくれる。寛大な山ともいえるのだ。
姿も秀逸。西麓の温泉街から眺めると、針葉樹の樹海からぬっと突き出る姿は美貌と気品を備えている。ことに夕日が当たると、神々しいとしか言いようがない。そしてその温泉街だが、かつての勇駒別温泉から1982年に旭岳温泉に改称して今日に至る。全国広しと言えど、温泉名を山名に変えさせたのは旭岳だけではないか。
これほどの実力と外見を備えた名峰でありながら、栄えある日本百名山には選定されていない。百名山となったのは周囲の山を統べる大雪山全体であって、旭岳はその一峰としかみなされていないのである。北鎮岳、黒岳、愛別岳、白雲岳、松田岳……。大雪山は綺羅星の如く連なる山の一大グループだ。ただし個々の山単位となると、独立して全国に存在感をアピールするには些か弱い。そんな中で、旭岳はPRポイントの優秀さからグループ内でセンターを務めている。つまり北辺のスター「旭」は、天下に響く人気グループ「大雪」のセンター、しかし卒業できない(単独では百名山になれない)センターなのである。
◆おすすめコース
ロープウェイ姿見駅─旭岳(往復4時間:中級向け)
※経験者が同行するのなら、大雪山東側の層雲峡温泉から遥々縦走すれば、大雪山グループの全体像に触れ合える。
◆参考地図・ガイド ◎昭文社:山と高原地図3「大雪山」