公衆衛生機能の体制強化 各課を隔てた保健師の分散配置を見直すときではないか?

 市民のいのちを守りきること。市民を守る職員の労働安全を守ること。気候変動とグローバル化の進展のもとで、パンデミックの可能性は今後も高まるでしょう。公衆衛生体制を強化し、保健所体制を見直すことが絶えず求められています。区役所支部協議会の公衆衛生部会は、18区に勤務する保健師らの職能集団として、3月15日に健康福祉局と市民局に対して「横浜市の保健所・公衆衛生機能の体制強化~市民のいのちとくらしを守るための提言と申し入れ~」をおこないました。公務の役割を市民目線で考え、討議を深める材料として、全文を掲載します。

横浜市の保健所・公衆衛生機能の体制強化
――市民のいのちとくらしを守るための提言と申し入れ

1 はじめに

 COVID-19が世界的に流行し、日本でも2020年1月から感染拡大が始まりました。それに伴い、保健師の仕事はこの2年大きく影響を受けました。日常業務が中止や制限となり、代わって感染症対策へのシフトチェンジなどをせざるを得ませんでした。

 感染症を主に対応していた各区役所の福祉保健課では、市保健所・区内各課との調整もままならない中、過労死寸前まで追い込まれ、高齢障害支援課やこども家庭支援課は、自分達の業務が再開する上に加えて、通常行っていない慣れない感染症対策の応援に出る等の負担を強いられています。

 そこで、横浜市従業員組合・区役所支部協議会は、「横浜保健師のつどい企画会」と共同で、2021年1月に福祉保健課健康づくり係の保健師に対して全数アンケート調査を行いました。その結果は、2021年4月20日に「区役所支部協議会・公衆衛生部会」発行の公衆衛生部会だよりにて、関係者及び区福祉保健センター職員に返しています。

 感染症対応は、公衆衛生の基本ですが、第6波到来の中においては、最大級の感染者の拡大により、再び感染症対応はひっ迫した状況に追い込まれ、困惑混乱はその極みに達しています。今回は、アンケートやその後の各課の実態にかんがみて、明らかになった課題や必要な対策等の提言と申し入れを健康福祉局他関係部局に対して行います。

20時近くになってもほとんどの職員が残る(2021年8月24日撮影)※写真は加工しています

2 区福祉保健センター 感染症対応の現状

(1) 平成19年4月発行の「健康危機管理強化にあたって」によれば、1市保健所と18支所で連携を取りながら、「迅速・的確な判断に基づき統一的な対応ができるようになる」はずであったが、実際には保健所がパンクしてしまい、指揮命令系統が混乱した。

(2)その結果、区によって応援の範囲や内容、職種、時期等がバラバラとなり、現場はさらに混乱した。

(3) 今回のような大規模感染症が発生した場合は、医師による判断や指示が必須となるが、実際には、医師が兼務で常時席にいない区があった。

(4) 感染症対策において、一報への対応、起案、保健所や他区他都市への連絡調整、検査や入院の調整など、必ずしも専門職ではなくてもできる業務に保健師が対応しており、初期においては、保健師による感染症対応は機能停止に陥る原因となった。
 その後事務職員の応援等が各区へ入るようになり、業務内容が整理され保健師の事務量は少し軽減された。

(5) 福祉保健課保健師の対応としては、感染症対応の基本であり本来するべき疫学調査等はやりきれない状況となった。また、忙しさのあまり感染症以外の保健業務が全部ストップしている。

(6) 応援に入った、高齢障害支援課・子ども家庭支援課の保健師にとっては、日常やっていない業務を行なうことになったため、判断や方針についてはその都度福祉保健課の専門職に確認する必要があった。そのため、福祉保健課保健師にとっては人が変わるたびにおこなう説明や指導が負担となり、一方で応援に入る側の保健師にとっては、全体の流れがわからないまま日替わりで一部だけの応援に入ることへの不安が強かった。第6波にいたっては、マスコミ情報の先導、日々変わる対応の中で双方にとっての負担はより大きくなった。

(7)感染症の分野だけでなく、高齢者の分野でもコロナ禍における健康二次被害の影響で対応するケースの相談件数や相談内容の難昜度が上がった印象があった。
 また、コロナ禍でも形をかえ介護予防などを展開せねばならず変更する負担は多いにあった。数少ない保健師の中でケース対応や業務対応の苦労が多かった。
 もう少し、各課の保健師を増やしてほしい。また、事務職を増やすことも検討して欲しい。

3 今後の公衆衛生対応を充実させるための提言と申し入れ

(1) 今後も発生する可能性のある新たな感染症に対応できる公衆衛生体制を強化するための保健所体制を見直すこと。
 感染症対策対応の要となる公衆衛生過程を修めた医師を保健所と各区役所に配置すること。保健所長と医師の専門性・力量を高められるような体制をつくること。また、保健師等の専門職とともに、事務職を適正に配置すること。

(2)災害として対応する際のシステムを明らかにすること。
 感染症対策は福祉保健センター長や医師の判断で行っているが、危機管理については区長の指示で行われている。今回は、はじめのうちは感染症対策で対応していたものの、回りきらなくなり、途中から危機管理としての対応になったが、その宣言等はなかった。本来ならば、保健所長、福祉保健センター長がある時点で災害級の健康危機管理と専門的に判断し、区長会に災害対応として依頼する、と言う流れが必要だったのではないか。健康危機管理対応として、保健所の所管と危機管理の部署が連動して動くようなシステムを検討すること。

(3)保健師のあり方や体制について再検討すること。
 大規模災害や、今回のような感染症による健康危機発生時に、迅速に対応できるためには、日常的に業務を共有できる体制が必要である。実務を共有しないで会議等での連携というのは実際的には役に立たない。
 また、各課の人員配置が少なく、危機があると途端に回らなくなることが今回露呈した。少人数の分散配置についても再考の必要がある。高齢者支援と健康づくり部門の連携は、国の政策の流れとしても重要視されている。横浜市においても、高齢者支援と健康づくり部門の保健師が一体となり業務をおこなえるような体制にすること。

(4)この間のコロナ対応を振り返り、感染症に関わる感染者の抱える(抱えた)問題や後遺症の問題などについて、今後の健康支援に活かす視点で振り返り、市民目線での対応の充実強化に向けた体制を検討すること。重症化リスク要因とされた、肥満や糖尿病、高血圧などの生活習慣病対策を強化し、また、クラスターを繰り返し起こした医療機関や福祉施設等の状況から見えたことを生かし、今後起こりうる感染症への予防対策の強化に努めること。

「過重労働と過小評価はもうたくさんだ!」
ロンドンの中心区で取り組まれた医療職の宣伝。世界中で公衆衛生体制に矛盾が噴出している