ニッポンを代表する山岳観光地:上高地を、登山者の目線で紹介してみたい。まずは大正池だ。焼岳の噴火で川がせき止められて出来た細長い池。見るなら早朝に限る。クリアな穂高連峰が、静謐な水面に鏡の如く投影する様を見る確率が最も高いからである。湿地の木道を少し歩くと池の北面に回る。かつては池の随所に多く見られた枯樹が大正池の景観のポイントになっていたが、ここには只一本の枯樹が残り、天を衝く孤高の様が印象深い。
梓川沿いの遊歩道をたどる。キラキラ輝く川面と明るい河原。下界ならともかく、奥深い山上でこの明るさ・伸びやかさは異例だ。ほどなく観光拠点とも言うべき河童橋に至る。ここで穂高をバックに記念写真を撮る人が多いが、風景的には橋を渡って少し上流に寄った堰堤上からの眺めの方が全貌を納められる。
そのまま川沿いに歩くと岳沢湿原と称する一帯の景観が秀逸だ。ごく浅い水深の、池のような川が流れているが、浅さ故に池の底の植生や砂礫が様々な色のパッチワークとなって、明るい風景画となっている。
さらに明神まで歩き、拝観料を払って境内の池と背後の明神岳の構図を楽しむ。もうひとつの注目スポットが嘉門次小屋だろう。日本アルプスの登山黎明期(明治後期)に、山の名ガイドとして活躍した上条嘉門次が開設、数代を経て今日に至る。ここの岩魚の塩焼きが絶品。囲炉裏でじっくりと燻るので、味が深まるとされている。
明神橋を渡り上高地に戻る。ここまで歩く距離は10㎞に及ぶが、緩いアップダウンはあるものの目立った標高差がなく殆ど平坦だ。それゆえ観光ルートとしても安心して歩けるのだが、さて、かような深山にこれほどの平坦地が広がっているのは奇跡的ともいえる。これは深い峡谷が火山の溶岩流でせき止められ湖が出現、それが水面の高さまで土砂に埋まって、かくも平たく残されたのである。
ハイクの締め括りは、温泉なら上高地温泉ホテルの露天風呂がお勧め。さらに、上高地帝国ホテルでお茶をしては如何だろう。重厚な内装、山奥にも拘らず都会ナイズに洗練された一流のサービスが受けられる。
◆おすすめコース
大正池─河童橋─明神池─上高地─ホテル群
(3時間半:初級向け)
※朝一の大正池は、池畔のホテルに泊まるか、夜行バスが便利。
◆参考地図・ガイド ◎「上高地マップ詳細」で検索して、同名の地図をプリントアウト