JAL争議=現在の日本で最大の不当解雇撤回闘争。中央執行委員会は、勝利解決に向けた支援を具体化する方向で、秋季年末闘争方針の提案を準備しています。企業内2労組は、会社の示した職務提供(業務委託2年間。最低賃金ほか労働関連法適用除外)などに合意し争議を終結しましたが、粘り強く闘い続ける仲間がいます。
滑走路を外れたような回答では着地できません
「あのとき死んだと思えばいい。今できるだけのことをやるだけです」
米アンカレッジ空港で貨物墜落事故が起きた1977年の〝あのとき〟を山口さんは静かに振り返ります。
当時は牛肉の輸入自由化の前です。生きたまま連れてくれば〝国産牛〟として販売できることに目を付けた大手商社らと、輸出の帰路便に積み荷がなく〝無駄〟にしていた日航。両者の一致した利害の後景へと追いやられていたのが「空の安全」です。
生きた牛を一頭でも多く載せるため、固定せずに7頭ずつ柵で囲い、49頭をバラ積みします。動く牛に機体は揺れやすく不安定で、し尿に起因するトラブルが起き、たびたび計器は異常を示しました。
航空局は危険を認識しながら、官製企業の利益だけを追求して、基準と根拠がないまま承認していました。
離陸直後の機体が墜落した日、生牛のバラ積み貨物便は2便ありました。もう一便の乗員に、山口さんがいました。
「便が違えば、死んでいたのは私だった。会社にモノを言うことが、亡くなった乗員への償いだと思っています」
2010年12月31日、JAL=株式会社日本航空インターナショナル(現・日本航空株式会社)は大晦日、「危ないことは危ない」と会社に意見してきた組合執行部ら、もの言う労働者を狙い撃ちした不当解雇を強行しました。
解雇されたのは、山口さんらパイロット81人と客室乗務員84人の計165人。遡ること同年1月19日に会社更生法適用を申請したJALの、政府が主導する再建を進めていた経営側は、巧妙に整理解雇を装ったのでした。
クビ切り基準
モノ言う労働者を
ねらい撃ち
「パイロットの三大疾病と言われるのが▼もう膜炎▼腰痛▼不整脈です。日常業務で繰り返される徹夜と時差は、不整脈を招くに十分すぎる要因で、不整脈になると安全運行のために3か月は休まなければなりません」
会社側は、そうした疾病と休務の期間や回数、それと年齢を使って、解雇したい労働者が該当するように人選基準案を用意しました。
「空の安全は、知識、技術、経験、チームワークが基本です。年齢で区切り、ベテラン職員を大量解雇する会社の姿勢は、経験軽視で安全に背くものです」
最高裁判決
交渉へ解決を
差し戻し
解雇されたうち148人が解雇撤回を求めて提訴しました。ところが、整理解雇の4要件を争った裁判は一審も二審も敗訴。そして2015年2月4日、最高裁判所は審議を尽くさず上告を棄却し、解雇を容認しました。
「東京地裁が選任した管財人による解雇事件で、管財人を相手に東京地裁へ訴えたのです。サッカーに例えれば、相手チームから審判が出ているような試合です。敗訴は決まっていたようなものでした」と山口さんは話します。
しかし、最高裁は翌2016年9月23日、今度は「不当労働行為、団結権侵害、憲法28条違反」との東京高裁の判決を確定させました。前年の最高裁に翌年の最高裁が異を唱えて労使の交渉へ解決を差し戻したと言えるものです。
このときの判決は次のように述べています。
会社が存立のために争議行為を阻止したいのであれば、労働組合が求めるところをも踏まえて、労働組合との間で何らかの妥協を図るしかない
会社更生下で史上最高益をあげていたJALの「整理解雇」。ILO(国際労働機関)は「被解雇者の優先雇用」の履行などを4度も勧告しています。
「(経営が)ILO勧告にすぐに従っていれば、多くの仲間が原職復帰できていたはずです。家族関係がめちゃくちゃになった仲間もいます」
一方、JAL経営が不当解雇の争いに提示した解決案は、労働関連法が不適用で経営側が免責される「雇用によらない働き方」。これが破壊された雇用と権利の回復か?
全面勝利まで
ひとりの原告も
取り残さない
JAL被解雇者労組は、要求に「原職復帰」と「損害を補償する解決金」を掲げています。
かつて企業内組合が決めた統一要求4項目「原職復帰」「希望者の地上職勤務」「不利益負担の補填」「労使関係の正常化」に準じており、要求の基本をなす土台は「ひとりの原告も取り残さない全面解決」です。
「私はパイロットなのでね。みんなが納得する滑走路にしか着地できないんですよ」