地方公務員と自治体労働組合の選挙活動・政治活動の自由(2021年2月改訂)

はじめに 選挙活動・政治活動の自由は憲法で保障された権利

 選挙活動・政治活動の自由は、憲法21条が保障する表現の自由に基づき、全ての国民に保障される重要な権利であり、憲法の国民主権の原理に直結した民主主義の根幹をなすものです。そして、この憲法上の保障は、地方公務員にも当然に及びます。

 判例も「政治活動の自由は、自由民主義国家における最も重要な基本原理をなし、国民各自につきその基本的な権利のひとつとして尊重されなければならない」(国家公務員の事件。昭56・10・22最高裁判決)ことを認めています。

 横浜市従業員労働組合が歴史的に確立してきた組合員の思想・信条、政治活動の自由を保障する立場から、以下のとおり、選挙活動・政治活動の自由についての見解を明らかにするものです。

1.公職選挙法が規制するのは「選挙活動」

 公職選挙法が規制の対象にしているのは、原則として「選挙活動」です。

 選挙活動とは、判例・学説によれば、①特定の選挙において、②特定の候補者の当選を目的として、③有権者に働きかける行為のことです。具体的には、「○○候補に1票を」「○○候補のため5票集めてほしい」と具体的に票読みを行うこと、告示後に候補者の宣伝カーや演説会場で応援演説をすること、などです。候補者名が出れば「特定の選挙において」「特定の候補者の当選を目的とした」行為となるでしょう。

 対して、「政治活動」については、告示後における政党その他の政治団体の一定の活動を規制しているだけです。したがって、告示前はもちろん告示後も原則として自由に行うことができます。

 政治活動とは、政策の普及宣伝、党勢拡大、政治啓発等を行う活動をいいます。具体的には、「カジノ誘致反対」「自校・直営方式の中学校給食の実現を」などの政策を訴えたり、組合の要求の実現をめざして行う宣伝カーの使用、立札、看板、ポスター、パネルの展示、パンフの普及やカンパのお願い、機関紙の配布等も政治活動に該当します。

2.地方公務員法の選挙活動・政治活動への規制は少ない

 地公法36条は地方公務員の選挙活動・政治活動を規制していますが、この規制は憲法第21条の例外ですから、これを拡大解釈することはできません。自治体当局が発する通達を拡大解釈して、あたかも地方公務員は一切の選挙活動・政治活動ができないかのように考えることは間違いです。地方公務員の選挙活動・政治活動への規制は限定されたものであり、旺盛な選挙活動や政治活動ができるのです。

(1)地公法第36条の政治活動の制約のしくみ

 そこで先ず、地公法第36条の規定の特徴を確認しておきます。

1)地公法第36条は非現業職員のみに関するもので、現業・公企の職員には全く規制がありません。また、地方独立行政法人の職員にも(公務員型、非公務員型ともに)適用がありません。

2)地公法第36条の禁止規定には罰則がなく、警察権力が介入する余地は全くありません。ただし、当局による懲戒等の処分はあり得るので注意が必要です。

3)地公法第36条2項の制約が適用されるのは、勤務する行政区域内のみです。行政区域外では、同項4号が定める「庁舎・施設利用の禁止」を除き、民間労働者と同じ活動ができます。

4)労働組合が組合活動の一環として行う活動は自由にできます。したがって、組合に団結して活動をすすめることが重要です。

(2)地公法第36条が規制している政治活動

 地公法第36条によって、私たちが通常行っている活動はほとんど問題とされることはありません。

1)「政党など政治的団体」の「結成への関与」、「役員となること」および「構成員になることの勧誘運動」の禁止(1項)で禁止されているのは、政治団体の発起人となったり、代表者となることです。単に団体の構成員となること、政治団体の会合に出席することなどは禁止されていません。また、「勧誘運動」というのは、「不特定多数の者を対象として、組織的・計画的に構成員となる決意をさせるよう促す行為」を指すのであり、たまたま限定された少数の友人に入党をすすめることや、個々に政治的団体への入会を依頼することは、禁止の対象ではありません(通知昭26・3・19地自乙発第95号)。

2)「投票勧誘運動」の禁止(2項1号)については、「勧誘運動」の意味は①で述べたとおりですから、個々の公務員が限られた範囲内で投票の依頼を行うことを禁止しているわけではありません。

3)「署名運動の企画、主宰等の積極的関与」の禁止(2項2号)で禁止されているのは、選挙に関する「署名運動」(例えば、特定の候補者の支持を求める署名活動)を組織し、自ら発起人や代表者となるなど、推進的役割を担うことです。そのため、公務員自身が署名を行うことや、限られた範囲内で署名の依頼を行うことを禁止しているわけではありません。もちろん、選挙に関係のない署名や組合の要求の署名運動は選挙期間中であっても自由にできます。

4)「寄附金募集への関与」の禁止(2項3号)の規定で禁止されているのは、特定の政党・候補者に対する選挙カンパを集める活動の責任者となることなどです。要請に応じて個人としてカンパすること、限られた範囲内で友人などにカンパの要請をすることは禁止されていません。

5)「庁舎等の利用」の禁止(2項4号)は現場でよく問題となります。この規定で禁止されているのは、たとえば、庁舎内に選挙ポスターを掲示するとか、候補者を庁舎内に入れて訴えをさせるといったものです。組合活動としての政策や要求のポスター、ビラを掲示することはできます。当局から不当な干渉があった場合は、ただちに中央執行委員会と連絡をとって対応してください。

3.労働組合としてできる選挙活動・政治活動

 労働組合は「労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的」(労組法2条)としていますが、その目的を達成するために必要な政治活動や社会活動を行うことができるのは当然のことであって、憲法21条の言論・表現の自由は労働組合にも保障されています。

 このことは選挙活動についても同様であって、最高裁(昭和50年11月28日国労広島地本事件判決)は、「労働組合が組織として支持政党又はいわゆる統一候補を決定し、その選挙運動を推進すること自体は自由である」と述べています。労働組合の特定政党支持については組合員の思想・信条の自由を労働組合が侵害することになるために問題がありますが、いずれにせよ労働組合が組合活動として選挙運動をすることができることについては、法律の上では異論がありません。

 庁舎内であっても労働組合が組合活動として政治活動を行うことは自由です。組合員である個々の職員が、勤務時間外に、このような組合活動に従事することは、庁舎管理規定の関係で注意が必要ですが、基本的には何も問題がありません。

 また、労働組合が団体として政治活動・選挙活動を行うためには、団体としての要求をまとめたり、候補者の推薦を決定したり、これを団体の構成員に伝達・指示したりすることが必要となります。団体の行うこれらの活動は、団体として政治活動・選挙活動をするために必要不可欠な組織内部行為であって、公選法の適用を受ける「選挙運動」には該当しません。このことは、行政実例や判例上で確立しています。ただ、組織内部行為といえるためには、①労働組合の意思決定に基づいていること、②文書の文言や体裁あるいは口頭による表現方法なども、その意思決定を伝達し、それを実現するために必要な範囲を保っていること、③意思決定した内容の伝達手段・方法も選挙以外のときと同じ手段・方法を用いていることが必要とされています。

 なお、「政党その他の政治活動を行う団体」は、告示後は、宣伝カーの使用やポスター・ビラ活動など一定の政治活動が公選法で規制されていますが、労働組合は、政治活動をすることを本来の目的としている団体ではないので、公選法によって告示後の政治活動が制限される「政党その他の政治活動を行う団体」に該当しません。そこで、労働組合は告示前はもちろん告示後においても政治活動は自由にできますので、特に告示後においても選挙運動(「○○候補に1票を」など特定の候補当選を目的とする行為)にわたらない限り制約を受けません。

 以下の具体例のように、労働組合には広く選挙活動・政治活動の自由が保障されています。当局からのいわれなき「おどし」をはねのけ、組合に団結しながら旺盛な選挙活動・政治活動の展開に確信を持って活動をすすめてください。

4.労働組合ができる活動の具体例

(1)宣伝カーでの宣伝

労働組合の宣伝活動として、選挙活動にわたらない範囲で、宣伝カーを自由に使用することができます。「憲法が生きる社会の実現 平和と民主主義を守ろう 横浜市従業員労働組合」などの看板をつけることもできます。さらに、宣伝カーのマイクでの政策宣伝は自由に行うことができます。

(2)ポスター・ビラ・パンフ・署名など

組合が国政に関する政策要求や「消費税増税反対」「憲法改悪反対」などの要求をかかげて、ステッカー・ポスターの掲示やビラ・パンフの制作・配布あるいは署名活動を行うことは、告示後も労働組合の活動として自由にできます。組合の政策宣伝ポスターを組合掲示板・組合事務所や自宅の玄関先などに貼ることもできます。「自治体リストラ反対」「消費税増税反対」の署名運動を、マイクを使って宣伝しながら駅頭などで実施したり、各戸を訪問して行うことも、告示後も自由にできます(ただし、各戸を訪問して投票依頼行為をすることはできませんので注意してください)。

(3)組合の機関紙

告示前は、直接的な投票依頼などの事前運動にあたらない限り、組合の機関紙で自由に選挙の記事を掲載して通常の方法で配布できます。告示後は、公選法第148条の適格紙(第三種郵便物などの要件が必要)であれば、選挙に関する報道評論を掲載できます。適格紙でなくとも、組織内部行為としてであれば「○月○日の分会代表者会議の決定をお知らせします」等の一文を入れた上で、その決定内容や指示等を掲載して、組合員に配布できます。

むすび

 以上のとおり、地方公務員と自治体労働組合への選挙活動・政治活動の規制の範囲は、実際のところ極めて狭いのです。

 住民要求と、自治体職場で働く労働者の要求を統一して前進させるためにも、市役所内の交渉とともに、住民本位の国政や地方自治を確立させる運動も欠かせません。

 当局や反動勢力のいわれなき介入を受けたときは、ただちに組合に相談してください。

 各級役員と組合員のみなさんが当局や反動勢力からの不当な攻撃を許さず、法律と制度を理解し、正々堂々と選挙・政治活動を行うことを期待します。

横浜市従業員労働組合中央執行委員会