大企業優遇・大規模開発を継続しつつも、
子育て施策など市民要求に応えるべく公約実現に踏み出す予算
~横浜市2023年度予算案に対する見解~
1月27日、山中竹春市長は2023年度予算案を発表しました。予算の構成を見ると、昨年に続き子育て支援を中心とする「計画実現の第一歩として子育て支援施策の充実」を第1に掲げている点からも、中期計画の方向性に沿った予算であると言えます。
中期4か年計画を策定し初めての予算編成となる23年度予算では、基本戦略として「子育てしたいまち 次世代を共に育むまち ヨコハマ」を掲げ、計画実現の第一歩として子育て支援施策の充実とともに、令和6年度以降を見据えた調査・検討・戦略等策定の2つの特徴で予算案を編成したとしています。「子育てしたいまち」では「経済的支援の充実やパパママのゆとりと安心を生み出す施策の推進」、「良質な教育環境の提供」といった特徴を前面に掲げています。「次の横浜をつくる着実な準備」では「多様化するニーズに対応し、速やかに事業につなげていくための着手と、持続可能な市政へのシフトを推進するための調査・検討・戦略の策定」を進めるとしています。
予算規模は全会計総額3兆8,008億円(前年度比▲0.2%)、一般会計1兆9,022億円(同▲3.7%、実質的な伸び率同+1.0%)を計上し前年度をやや下回りました。
1 2023年度予算の概要
予算案の特徴は「扶助費」をはじめとする義務的経費が伸び、「人件費」や「行政運営費」、「公債費」は減額、「施設等整備費」は前年並み、「繰出金」は増額となっています。
市税収入は、個人市民税は給与所得納税者数の増などにより4,172億円(前年度比+110億円)とするほか、固定資産税・都市計画税は土地の評価替えによる増や家屋の新増築の増などにより合わせて3,528億円(同+65億円)となっています。市債は、中期計画における「4か年活用額:5,300億円」のもと1,148億円(前年比▲212億円)としています。
この結果、「一般会計が対応する借入金残高」は、▲741億円の3兆0,569億となり昨年度末残高(3兆1,309億円)より減少するとしています。しかし、一般会計の市債残高は減少しているとはいえ、大規模開発事業への巨額の市債発行の継続は、依然として将来負担や市民サービスへのしわ寄せとなることが危惧されます。
歳出では、基本戦略「子育てしたいまち 次世代を共に育むまち ヨコハマ」にかかる予算が5,485億円計上されており、その内訳は「テーマ01子育て世代への直接支援」に2,903億円、「テーマ02コミュニティ・生活環境づくり」に767億円、「テーマ03生産年齢人口流入による経済活性化」に834億円、「テーマ04まちの魅力・ブランド力向上」に275億円、「テーマ05都市の持続可能性」に706億円となっています。また、「DXの推進」には163億円(前年度比+44億円)が計上されています。施設等整備費は、1,985億円(前年度比+6億円)と前年度並みの計上となっていますが、横浜環状高速道路に193億円(前年度比▲26億円)、埠頭機能の再編・強化に212億円(前年度比▲68億円)、山下ふ頭用地の再開発2億円(前年度比▲22億円)など、大企業の基盤整備型公共事業や大規模開発事業に巨額の予算を投じつつも見直しが進んできています。また、企業誘致促進43億円(前年度比+17億円)、観光・MICE推進44億円(前年同額)、客船の寄港促進11億円(前年同額)など引き続き「呼び込み型」施策に計上しています。
市民向け施策を見ると子育て支援や子どもの貧困対策、児童虐待防止など市民要求に応えた施策も盛り込まれています。小児医療費助成で8月から一部負担が撤廃されます。待機児童解消に向けた「保育所整備」は29億円を計上し、1,295人の受け入れ枠増を図りますが、認可保育所の新設は500人、横浜保育室からの認可保育所移行48人(移行による減▲22人)にとどまる一方で、定員拡大を増やし昨年並みの受け入れ枠増を維持しています。全校実施される中学校での「さくらプログラム(選択制のデリバリー型給食)」に58億円(前年度比+13億円)を投じますが、想定喫食率は36%にとどまっています。児童虐待対策では児童相談所の新設を含む再整備が進められています。動物園の充実(野毛山動物園リニューアル)として3.4億円が計上され、無料の継続も公表されました。特別養護老人ホーム整備は着工数が942床と前年より185床増えるとともに、大規模修繕の際にあわせて行う介護ロボット・ICTの導入支援に9.8億円が増額されています。市民要求の強い国民健康保険料、介護保険料、医療費の減免拡充の抜本的改善はありません。商店街振興策は2億円(前年度比▲1億円)ですが、企業誘致は43億円(前年度比+17億円)となっています。
2 市民の生活意識や要望を市政運営や政策立案に反映した予算案か
「令和4年度横浜市民意識調査」では、心配ごとや困っていることの上位5項目として、①「自分の病気や健康、老後のこと」54.2%、②「家族の病気や健康、生活上の問題」38.5%、③「景気や生活費のこと」25.8%、④「仕事や職場のこと」14.3%、⑤「子どもの保育や教育のこと」11.5%となっており、「自分の病気や健康、老後のこと」が昨年から2.9ポイント増加し過去最多となっています。
また、「市政への要望」では、①「地震などの災害対策」31.1%、②「高齢者福祉」28.9%、③「病院や救急医療など地域医療」28.5%、④「防犯対策」25.7%、⑤「通勤・通学・買い物道路や歩道の整備」23.4%等が多く、さらに「高齢者や障害者が移動しやすい街づくり(駅舎へのエレベーター設置など)」「バス・地下鉄などの便」「地球温暖化への対策」「最寄り駅周辺の整備」「保育など子育て支援や保護を要する児童への援助」などが上位にあります。また、「橋梁や上下水道などの都市インフラの老朽化対策」が19位から13位に順位を上げています。一方、「高速道路整備」36位、「都心部整備」39位、「港湾機能」41位、「観光・コンベンション」43位(最下位)となっています。こうしたことからも、市民は、高齢者福祉や医療、障害者支援、防災・防犯対策、身近なインフラ整備などの施策拡充によって、安心・安全の暮らしを望んでいることが伺え、予算案は多くの市民の要望に向かいつつあると言えます。
3 職員定数は増だが、職場要求に応えず、非正規・不安定雇用労働者を拡大
厳しい財政状況のもと、市民の信頼に応えながら必要な施策を推進するため、スクラップ・アンド・ビルドを基本とした見直しにより効率的・効果的な執行体制を構築するとして、条例定数では8年連続の増となる191名の増となっています。しかし、公営企業と教職員を除く市長部局等では32名の減となっています。児童相談所の体制強化に伴う8名の増は要求に基づく成果ですが、度重なる減員によって疲弊した職場の業務改善やサービス拡充のための正規職員増の要求に十分応えたものとは言えません。依然として非正規職員による代替えが進んでいると言えます。業務量の減による見直しが減る一方、民営化・民間委託化等による対応が多くを占め、こうしたことは業務の担い手を非正規労働者や業務委託による不安定雇用の民間労働者に置き換え、「官製ワーキングプア」を生み出し、本来自治体がなすべき公的責任を放棄し、わずかな経費削減と引き換えに業務蓄積や業務継承ができない職場をつくり、安定した雇用対策にも逆行するものです。
4 「持続可能な市政運営の実現に向けた行政サービスの最適化」としての経費削減は昨年より減少
毎年、「厳しい財政状況」を強調し、市役所内部経費削減の他、事務事業の効率化や業務の民営化・委託化、外郭団体への財政支援の見直し等を強めています。2023年度予算案では「創造・転換」による財源創出として歳出削減と歳入確保を併せて24億円が見込まれており、市立保育園の民間移管(3園/累計66園)等が含まれています。合理的な事務経費の見直し等は進めるべきものですが、経費削減を目的とした市民負担の押し付けや事業の民間化・見直しが市民生活に否定的影響を与えていないか十分な検証が必要です。
5 市民要望を実現し、真の経済活性化・市民のいのちと暮らしを守る予算に
市長選公約に掲げた3つのゼロについては、「75歳以上の敬老パス自己負担ゼロ」は利用状況の分析にとどまり進展は見られませんでしたが、「子ども(0歳~中学生)の医療費ゼロ」は8月から所得制限及び一部負担金が撤廃されることとなり、「出産の基礎的費用ゼロ」は出産費用に関する調査が行われるなど予算に反映されつつあります。また、中学校給食の全員喫食は、選択制のデリバリー型給食ではあるものの全校実施に向けた準備が進められています。引き続き、市従の要求に沿った実現を目指し運動の前進を図っていく必要があります。
国政における政策問題とともに、横浜市が憲法と地方自治の本旨にもとづき、どう市民生活の改善や安心・安全の確保、住民福祉の増進につなげる予算にしていくか市従として各職場からの意見も参考にしながらさらに研究を深めなければなりません。
横浜市従は、職員がやりがいを持っていきいきと働くことができるためにも、市民本位の予算を求めて市民とも共同してこれからもたたかいます。
横浜市従業員労働組合中央執行委員会