八重山諸島の主島:石垣島は、沖縄本島とは500㎞程も離れていて東京大阪間より遠いから、お天気なども随分と違ってくる。まさに別地方といえよう。その石垣島の主峰が於茂登岳、標高526mは沖縄県最高峰でもある。ゆったりした山姿だが、こうした好立地の山の宿命で、山頂部は人工物のターゲットになりやすい。於茂登岳も二つの巨大鉄塔が立ち、登山的視点では興ざめな上に、山頂一帯は笹原に覆われ見通しが悪く、数か所から断片的な展望があるのみだ。登山道もあり人気はあるが、達成感や感激度はいまいちかもしれない。
石垣島ひいては八重山諸島の一押しが野底岳である。於茂登岳からは北へ10㎞ほど離れていて標高も低いが、まずはその姿にドキリとさせられる。さしづめ「八重山のマッターホルン」か「石垣槍」といった形状で、恰好は抜群だが素人にあんな険しい山が登れるはずがない……、ところが実は簡単、元気のいい観光客でも登れてしまう。ならばあの姿に動かされないハイカーはいないだろう。
山頂部だけ岩峰になっているので展望は超一流。是非とも晴天に登りたい。石垣島の複雑な山地形と海岸線を取り巻く青海原が素晴らしい。沖合はコバルトブルー、沿岸はサンゴ礁だからエメラルドやモスグリーン状のグラデーションが彩る。両者の境界には線状に白波が立ち、サンゴ礁のエリアを明確にしてくれている。それが視界の左右に展開、山上から美ら海を眺める感覚は絶品としかいいようがない。
ちょっと残念なのは山間に林道が通じていて、そこからも登山道があり10分ほどで登れてしまうことだ。これほどの名峰である。やはり麓の登山口でその雄姿を拝んだ上で、まっとうに登った方が山頂での感動も倍加するというもの。
さてこの山の愛称は野底マーペーという。むしろこの名の方が親しまれている。マーペーという名の若き女性の悲話に因む。引き裂かれた恋人の住む島が、例の於茂登岳が壁になって見えず、悲観して山頂の岩になってしまったというお話。いやはや、山頂がいまいちの於茂登岳、とんだところでもお邪魔虫になってしまったわけだ。
◆おすすめコース
野底岳登山口─山頂(往復1時間15分:初級向け)
※ハブやヒルは少ないようだが一応注意しておきたい。
◆参考地図・ガイド◎決定版はない。「野底岳 登山」でネット検索を