【第232】加瀬山33メートル(神奈川県)山学問の府から引き寄せの山へ

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 ビル群の真っただ中にある新川崎駅の駅前から東側に出てみると、びっしり並んだ住宅街の上に一連の樹林が認められる。低い山の上に連なる森の上端が見えているわけだ。その低い山を加瀬山と呼ぶ。

 加瀬山は、高尾山付近に始まり広く横浜市や川崎市のエリアを覆う多摩丘陵の末端に当たる。矢上川によって丘陵本体と切り離され、平地に取り残された島の様相だ。長径700m、短径150mほどで、周囲が切り立っている一方で山上は真っ平に近く、まるで住宅街に巨大なタンカーが浮かんでいるかのよう。

 平野の只中に位置する地理的要因から、この山は古来多くの人を引き寄せてきた。山上に連なる古墳に始まり、寺院や複数の神社が鎮座、太田道灌にまつわる伝承もある。今日なお、早朝から多くの人が集まり体操や運動にいそしみ、山上公園に憩う。そして極めつけが、山上の半分を占める夢見ヶ崎動物公園だろう。塀もなく入場自由、ゆる系の動物が多く、癒しの動物園として、日中は家族連れなどで賑わう。人気ナンバーワンはレッサーパンダ、狸など身近な小動物まで多種多彩。

 外にも山上の見どころは多い。ピークハンターなら数ある古墳の盛り土を山頂に見立ててもいい。三角点のある小山よりも、浅間神社のある小山の方が僅かに高いから、加瀬山のトップはこちらだろうか。常緑樹のカイヅカイブキで作られた長大なトンネルもある。北端の見晴らし台からは川崎市街地の背後に、山々の連なりがよく見える。

南側から、市街地に浮かぶ加瀬山

 駅から徒歩10分ほどだからウォーキングの対象としては些か物足りないかもしれない。そんな向きには、東横線(あるいはグリーンライン)日吉駅から歩くことをすすめたい。駅正面から、慶応義塾大学日吉キャンパスへ。学内は受験期間などを除く日中なら見学自由。ただし静かに歩こう。学府に相応しい建物群の威容に触れ、体育施設やグラウンド脇を抜け、町に下る。そこから例の矢上川(横浜と川崎の市境でもある)を渡れば、ほどなく加瀬山の北端に着く。大学から動物園へ、体験豊富な大都会の「山巡り」である。

◆おすすめコース
日吉駅─慶大キャンパス─加瀬山─新川崎駅または鹿島田駅(1時間半:初級向き)