蚊に食われない人はいなくても、ヒルに食われた経験のある人は100人に1人もいないのでは? ところが近年、丹沢周辺でヒルの被害が増え、今や4月半ばから11月初めまでの降雨中や雨上がりは、うっかり歩けないようになってしまっている。今回はちょっと寄り道、ヤマビルの傾向と対策について紹介しよう。
体長は1~5㎝、ミミズを小型にしたような感じ。普段は湿り気の多い落ち葉の下などに潜み、人間の呼気を感じると尺を取りながら意外に素早く移動。肌に取り付き、鋸構造の歯で皮膚を裂き吸血する。痛くも痒くもなく、自身の体重の数倍の血を吸うと、コロコロに太ってポトリと落ちる。一度満腹すれば、1年は遊んで暮らせるらしい。また血が止まりにくくなるヒルジンを分泌、ために血がジワリジワリと流れ続け、真っ赤に染まった靴下を見て仰天することも。
かつて神奈川県エリアではヒルの分布域は丹沢北部の山奥に限られていたのだが、平成になる頃から徐々に生息域を拡大。令和の今日、丹沢から北相模一円に広がり、汚染域は県内面積の2割にも及ぶ。山に近い里や町でも被害が増えているから、社会問題化しつつもある。ではこのまま際限なく広がるのかというと、相模川と旧東名高速が防波堤になっていてどうにか拡大を食い止めている。これはヒルを媒介する野生動物(鹿や猪)が、容易に行き来できないためと推測されよう。ゆえに近隣ではあっても、防波堤外に当たる高尾山系や箱根エリアではヒルの被害は聞かない。
ではヒル対策は?登山用品店に売っている「ヒル下がりのジョニー」なるヒル忌避剤が効果抜群だ。ぬらぬらしたゲル状で、靴の側面の立ち上がり5㎝ほどの範囲に塗っておけば、奴さんはまず上がってこない。休憩で腰を下ろす時だけ注意すれば済むのである。不幸にも食われてしまったら、防虫スプレーを見舞ってやれば、のたうち回った挙句死んでしまう。無闇に増やさないため、確実に仕留めるよう求められている。
とかく嫌われ者のヒルだが、じっと見つめてみよう。光沢のある飴色のボディに3本の黒い縦のストライプ、なかなかアートなのである。蜂やムカデと違って毒は皆無だし、蚊やマダニのように病原体を媒介することもない。容貌で必要以上に嫌われている気の毒な存在、と言えなくもないのでは?