旧出羽の国といえば秋田・山形両県の膨大なエリアに跨るが、山形県庄内平野の背後に陣取るのが出羽三山である。月山・羽黒山・湯殿山の三山からなり、古来極めて宗教色が強く、それぞれに由緒ある神社が鎮座する。羽黒山が現世利益を叶える現在の山、月山は祖霊が鎮まる過去の山、湯殿山が生命の誕生を表す未来の山であり、三山を詣でれば「生まれ変わりの旅」ができるとされる。
三山の中では羽黒山が最もポピュラーだ。山麓には宿坊が立ち並び、町全体に霊域のムードが漂う。スタートの随神門から山頂の伽藍群まで2446段の石段を登り詰めなければならない。現代では車道も通じているが、霊的体験を味わうのなら、やはり自分の足で登ってこそ。段差は小さいので、ゆっくり登ればさほどきつくはないのだが、石段なので濡れると滑りやすい。下りは無理せずバスで降りるのもいい。
さあ登るぞという意気込みとは裏腹に、歩き出しはもったいないくらい下ることになるが、谷底には神橋、須賀の滝、国宝の五重塔、爺杉など見所が集中している。ここまでで帰ってしまう観光客も多そうだが、いよいよ一気の階段上りが始まる。参道両脇には江戸期以来の巨大な杉が立ち並び、神域ムードはいよいよ盛り上がる。5合目付近に茶屋があって、ここは文字通りのオアシス。茶屋前から庄内平野の眺めが良く、餅類と抹茶のコラボが絶品だ。
ようやくたどり着いた山頂部は実に広大。三山の三神を祀る壮麗な三神合祭殿をはじめ、数々の寺社が立ち並ぶ。歴史博物館もあり、じっくり巡ってみたい。また、渡り廊下で社殿と直結の宿坊「斎館」で宿泊してみるのもお勧めだ。
湯殿山は標高の高い大きな山だが、神社や御神体は山麓にあり、山頂そのものはシンボリックな存在で、登山道もない。三山の中では最も楽に参拝できるわけだが、御神体はじめ一連の参拝過程が実にユニーク。ただしここでの神事は「語るなかれ、聞くなかれ」とされているので、詳細は述べられない。「山」絡みを含め、他では得られない貴重な体験ができる、と言うだけに留めておこう。
おすすめコース
羽黒山随神門-羽黒山(往復2時間:初級向け)
※羽黒山は交通至便だが、湯殿山へはシビアでよく調べておきたい。
参考地図・ガイド◎羽黒町観光協会のホームページから「羽黒山境内図」をダウンロード