【第248山】鋸山329メートル(千葉県)圧巻と衝撃!巨石の異空間

 三浦半島から浦賀水道を挟んで、対岸の房総半島に丸太鋸を逆さまにしたような大きな山塊が望まれる。名は体を表すで、これがズバリ鋸山だ。ロープウェイや車道もあるのだが、じっくり堪能するのなら歩いて登るに限る。

 鋸刃の北側は、ブレードそのままに岩壁が垂直に切り立っている。百m近い高さのビル群が造形を変えつつ連結しているイメージで、アートなどという生易しいものではない。山上に奇跡的に現れた異空間としか言いようがない。10mほどもハングした天井や、真四角に穿たれた大穴など、神々の造形ではないかとの念にかられてしまうのだ。

 実はここは石切り場の跡なのである。一帯は火山灰などが固結してできた凝灰岩からなっており、江戸時代中期から昭和にかけて、房州石のブランドで地元の一大産業として採掘が行われてきた。元の山体はずっと緩やかに存在していて、上方から順に切り出していった長年の成果が、今日驚きの空間として残されたわけである。

 中でも圧巻は、異形の大伽藍である「岩舞台」と、青海を背景にそそり立つ「ラピュタの壁」だろう。一方、石の運び出しに造られた急峻極まる石樋や、作業場空間の跡などが残され、ネイチャーミュージアムとして、随所に丁寧な説明看板があるのは嬉しい。展望もすごい。特に「東京湾を望む展望台」からが圧巻。肝心の山頂はさほどの眺めはない上に寄り道になるので、スルーしてしまう手もある。

 鋸刃の反対側は日本寺の境内に当たり拝観料が必要。ニッポン最大の石仏である大仏や、洞門状の崖にびっしり並ぶ千五百羅漢、オーバーハングした岩が天空に突き出した地獄覗きなど、他所ではお目にかかれないような見どころが多いのだが、石の異空間に比べると衝撃度は小さいか。双方を巡るのなら、先に寺内、後半で石切場に回る方がいいかもしれない。

 山を下りたら、駅のホームから、あるいは復路のフェリーの船上から鋸山を眺めてみよう。ギザギザの刃のどこが山頂で、どこが石の異空間なのか、あらためて見定めてみれば、感動もひとしおだろう。

◆おすすめコース
金谷港─車力道─鋸山─岩舞台─ラピュタの壁─観月台(3時間半:初級向け)
※久里浜港からフェリーで渡るのがお勧め。山中の階段は急峻で段差が半端ない、覚悟のほどを。

◆参考地図・ガイド ◎「鋸山登山道マップ」でネット検索して地図をダウンロード

高さは30メートル以上、圧巻の石空間