ニッポン有数の大山脈:南アルプスの巨峰群を間近で存分に眺められる場所として、一般の人が観光気分で気楽に堪能できるのが、南アルプス西部に位置するしらびそ高原だ。1900m近い高度まで車道が通じ、洒落たロッジやオートキャンプ場が整い、それこそ居ながらにして、南アルプス南部のジャイアンツが眼前に圧倒的に展開する。また、同地は天体鑑賞のメッカとしても知られ、奥深いがゆえに街の灯に惑わされることなく、天の川などをリアルに眺めることができる。
南アルプス南部の眺めはここで満足できるとして、北部までを存分に見るのなら、しらびそ高原をベースに稜線を北に辿り、一帯の主峰である奥茶臼山まで登らなければならない。カラマツなどの明るい人工林が主体であった高原一帯から、一転してシラビソ・トウヒ・ツガなどの針葉樹の原生林が続く中に細々と道が通っている。
ようやく登り着いた奥茶臼山だが、樹林に覆われ展望は良くない。登頂達成ということで、ここで引き返す人も多いのだが、是非にも先へ進みたい。急斜面を下るとほどなく北側の展望が開け、広大な伊那谷を挟んで中央アルプスの全山、遠く北アルプスまでが一望になる。ほどなく傾斜が緩み広場に達する。ここでようやく、しらびそ高原では見えなかった南アルプス北部の山々が正面に屏風のように立ち並び圧巻だ。
さてこの広場、知る人ぞ知る名所(?)でもある。広場の中央、草むらの中になぜか15インチくらいのブラウン管テレビが鎮座しているからだ。もちろん作動しないが、この光景、シュールとしか言いようがない。一体誰が?こんな山奥に?周囲を見てみると錆びたワイヤーやブルーシートの残骸がある。かつてここは木材伐採の基地で飯場があり、そこで使われていたテレビなのだろう。一帯の眺めが良いのも、伐採の後で樹林が成立していないからと納得がいく。いつから残置されているのか知らないが、過酷な環境の中で朽ち果てることなく原型をとどめていることに驚かされる。大自然と電化製品、ミスマッチながら魔訶不思議な融合を感じずにはいられないのである。
◆おすすめコース
らびそ峠─奥茶臼山(往復8時間:中級向け)
※山に登らずとも、しらびそ高原での宿泊はお勧め
◆参考地図・ガイド ◎昭文社:山と高原地図43「塩見・赤石・聖岳」